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第3.5章:定期演奏会 定期演奏会に向けて
夏休みに入った。当然のように暑い日々が続く。
そんな暑さにも負けず、七月下旬にある部活最後の定期演奏会に向けて、僕たち、ブラスバンド部は懸命に練習に励んでいた。今日も練習のために、朝から音楽室に閉じこもっている。当日に演奏する曲は、アニメの主題歌やクラッシックの曲の予定だ。ただ最後の曲だけ、響君が作曲した曲を演奏することになった。
曲名は、【絆】。
初めて、【絆】を聞いたとき、パートごとの見せ場や三年生のソロがあり曲自体が生きているように感じた。さすが、響君だと思う。部活のみんなも響君を褒めると同時に、中には、吹けるかなと不安がっている人もいた。響君は、一人一人の絆をこの曲に乗せて伝えて欲しいと言った。しかし、心なしか浮かない顔をしていて、その理由を尋ねても、明確な答えをもらえなかった。
日々の練習のおかげで、【絆】を除いて、無事に完成形へと近づいてきた。
「あとは、【絆】だけだね。」
休憩時間、いつものように校庭を眺めながら響君に言った。
「みんな、良い感じに仕上がってきていると思うから、この調子でいけば、大丈夫だよ。」
「僕もそう思う。けど、【絆】、けっこう難しいね、、、僕のソロとか大丈夫かな、、、」
僕は、自信がなかった。
「大丈夫!できるよ!」
響君は、笑顔で励ましてくれる。
「俺もソロでミスらないか、不安だわー」
凛君がやってきて会話に入る。
「二人とも大丈夫だよ!今まで頑張ってきたんだから!」
響君が明るく励ましてくれる。
「いい風ですね。」
姫城部長が珍しく僕たちのそばに来た。
「部長?珍しいですねぇー。」
凛君が、姫城部長を見る。
「たまには、みなさんとお話でもしたいなと。」
穏やかな顔をしている。
「【絆】は、弾いていて、心に感じるものがありますね。完成が楽しみです。音宮君にとって絆は、どのような意味を持つのでしょうか。」
「そうですね、、、まだ考え中ですかね、、」
響君は、何かを考えて込んでいるようだった。
「そうですか。そろそろ、休憩時間も終わりです。練習に戻りましょう。」
姫城部長は、戻って行った。
「俺にとっての絆は、なんだろうか、、」
凛君が、自問しながら、戻って行く。
僕は、響君の様子が気になっていた。
「響君?大丈夫?」
――――――――――――――――――――――――
部長に言われた時、自分の過去を回想していた。
「響、お前は、音楽の才能に溢れている。」
「響ちゃんが奏でる音は、優しくて素敵ですね。」
創父さんと琴父さんがいつも笑顔で褒めてくれる。創父さんは、有名なプロのピアニストで、数多くの賞を受賞している。琴父さんもまた、プロのバイオリニストである。両方とも音楽家で、幼い頃からたくさんの音楽を聴き、数多くの音楽の指導を受けてきた。特に、ピアノを重点に指導された。ピアノを弾くことは、好きだった。単純に、あのけん盤から奏でられる無数の音に魅入られ、弾き方一つで音が変わるその繊細さに心を打たれた。順調に、ピアノは上達し、多くの賞を受賞でき、周りから将来有望とよく言われた。
「響、お前なら絶対に合格できる。私の自慢の息子だからな。」
「創さん、あまり響ちゃんにプレッシャーをかけてはだめですよ。」
「何を言っている。響ならできるさ。」
高校の進路を巡って二人は、対立していた。創父さんは、名門音楽高校に入れようと躍起になり、琴父さんは、あくまでも進む道を自分で選んで欲しいと言った。僕はというと、ピアノを弾くこと自体は好きだから、音楽高校に入って、ピアノを弾いてもいいと思った。けれど、少しだけ創父さんの年を追うごとに増す熱い期待を重く感じていた。それを察してか、琴父さんは、僕に進路を決めさせたかったのかもしれない。期待を裏切りたくないという思いが先行してしまい、創父さんが押す音楽高校を受験した。
結果は、不合格。
その結果を聞いたとき、創父さんは、深く失望した。それ以来、創父さんは、僕に何も言わなくなった。琴父さんは、何も変わらなかったけれど、創父さんとは、会話をしなくなった。まるで、創父さんにとって、僕はいないことになってしまったんだ、、、
――――――――――――――――――――
「ごめん、、、大丈夫だよ!」
響君は、いつものように笑った。
「そっか、、ならいいけど、、」
僕たちは、練習に戻った。
【絆】を練習しながら、僕にとっての絆の意味を考えていた。個人練習、そして、パートごとの練習を繰り返すにつれて少しずつ上達していく。初めて全体で合わせることになり、何とか一回演奏することができた。しかし、それは、完成まで程遠いものだった。
「わりー、ミスった」
凛君が、みんなに謝る。他の楽器のみんなも苦戦していて、部長が吹くホルンと響君が吹くトランペットだけは、ミスが全くないように感じた。
「みなさん、まだ日はあります。諦めずに頑張りましょう。ワタクシたちなら絶対にできます。」
部長がみんなを勇気づける。響君が立ち上がる。
「みんなと一緒にこの曲に命を吹き込んでほしいんだ。」
いつも冷静な響君から出た言葉がみんなの心に響く。それから今まで以上にこの曲に対して取り組むようになり、来る日も来る日も、僕たちは、練習した。
そんなある日、音田先生がふらっと音楽室にやってきた。
たまたま全体合奏で【絆】を弾く僕らを遠くから見ていた。先生は、曲に合わせて深く頷いていた。演奏が終わると、音田先生が各パートごとの吹き方、ソロの吹き方、全体の完成度、全てにおいて事細かに指導し始めた。その光景に僕らは、目を疑った。というのも、音田先生は、放任主義で、練習には、ほとんど顔を見せることがない。演奏会の時には、指揮者として檀上に上がってくれるけれど、それ以外は、僕たちに、活動内容を一任している。音楽大学を出たと教えてくれたのに、今まで指導をほとんどしてくれなかった。さらに驚いたことに、それから毎日やって来て、指導をしてくれた。先生の指導のおかげで、【絆】の完成度は日々高まっていく。
とうとう定期演奏会前日。
個々での最終練習を終え、【絆】を全体で合わせた。弾き終えると、初めて【絆】の完成形を見た気がした。しかし、まだどこか完成形に近くない気がする。音田先生が言った。
「あとは、みなさんの心をこの曲に込めてください。一人一人、絆の意味を考えて吹けば、この曲は、さらにいいモノになります。」
絆という意味。
やっぱり、それがこの曲の完成に繋がるのかな、、、、
今日の部活が終わり、明日の本番を待つのみとなった。
響君といつもの帰り道を歩く。
「とうとう明日かぁ、、不安だなぁ、、」
「大丈夫だよ!愁君ならできるよ!」
いつものように元気づけてくれる。
「そうかなぁ、、、けど、先生が言っていた絆の意味を考えるって、、、まだよくわからない、、、響君は、何かわかる?」
響君は遠くを見つめ静かに答えた。
「僕にとって、絆は、部活のみんなとの絆もあるけど、もう一つの絆もあるんだ、、、、、壊れてしまった絆を取り戻したいんだ。」
その横顔は、どこまでも寂しそうだった。
「どういうこと?」
「ううん。何でもない。明日頑張ろうね!」
響君は、いつものように笑った。
「わ、、、わかった。」
僕たちは、別れる。やっぱり、響君の様子は、少し変だった。
一人になり、絆の意味を考える。
そして、その意味を曲に込めることを改めて考えた。
絆、、部活のみんなとの絆、、、
気づくと家に着いていた。
「おかえり。」
咲父さんが迎えてくれる。
「ただいま。」
「明日、定期演奏会だね。みんなで行くから。」
「なんだか、恥ずかしいなぁ。」
「そんなことないよ。皐も来れるから。」
「皐兄まで来るんだー」
「みんな、楽しみにしてるよ!」
「はーい。」
僕は、気恥ずかしかった。家族と話すにつれて、絆は、部活のみんなだけでなく、家族にも当てはまるものだと改めて感じた。
絆の意味を曲に乗せる、、、
なんとなく、分かった気がした。
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