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みんなに囲まれて

しばらくして、僕たちは、平常心を取り戻し、片付けの準備をする。楽器の片づけが全て終わり、賞の発表を残すだけとなった。 「今年は、どこなんだろうね。」 「まぁ、いつものところだろ!」 「そうだろうね」 僕たちは、賞の発表を待った。案の定、最優秀賞は、いつもの高校だった。最優秀賞が発表され、優秀賞が続く。もちろん、僕らの学校の名前は呼ばれない。これで、式は、終わりだと思った時、アナウンスが続いた。 「今年から、新たに設けました特別賞の発表です。この賞の審査員は、会場の皆様で、どの高校の演奏がよかったのかを審査してもらいました。結果は、、、、」 僕たちの高校が呼ばれた。 会場から大きな拍手が沸く。 「うそ、、、」 「なんで、、、」 僕たちは驚きと興奮で包まれる。音田先生が、姫城部長に檀上へ上がるように促す。檀上へ上がり、県知事から賞を授与され、お言葉をもらう。 「今日、私は、音楽の素晴らしさを実感しました。人の思いが音楽を通して伝わるということを、肌で感じました。君たちの更なる飛躍を願って、この特別賞を贈ります。感動をありがとう。」 会場から更に大きな拍手が沸く。興奮覚めないなか、授与式は終わりを告げた。授与式が終わり、それぞれの思う人に会うために会場の入り口へ向かう。僕は、多くの人の中から夏兄を見つけた。夏兄は、僕に手を振ってくれる。近くに、父さん達もいた。 「すげぇーよかったよ!マジ感動した!特別賞、おめでとう!」 夏兄は、興奮していた。 「ありがとう!」 清父さんと咲父さんが褒めてくれる。 「よかったよ。愁の思いが伝わった。」 「ほんと、優しい気持ちに包まれたよ!」 皐兄は、相変わらずのスーツ姿で、 「本当に良かったよ。おめでとう。」 僕の頭を撫でてくれた。 「みんな、来てくれてありがとう。今までブラスバンド部をやっていてよかったよ。本当にありがとう。」 家族みんなで気持ちを共有できた。音楽を通して、人に思いを届けることが、こんなに感動するなんて初めての感覚だった。本当にやっていてよかった。 ―――――――――――――――――――――― 俺は、家族と会った。 「兄ちゃん、すごーい!!」 弟の律が、目を輝かしている。 「だろ?すごいだろ!」 「うん!!!」 「凛、とてもよかったよ。今まで律のためにも、フルートを吹き続けてくれてありがとね。」 「特別賞、おめでとう。」 両親がそう言ってくれる。 「ありがとう!!」 遠くに勇を見つけた。 「おーい!来てたんだ」 「へへ、、まぁな、、、演奏、よかったぜ!」 「その、、、ありがとな」 俺は、照れながら言った。 「ばかやろう。お前が礼なんか言うと、調子狂うわ。また、野球やろうな!」 笑いながら、俺の肩を叩く。 「じゃーな!」 勇は、帰っていった。 「勇、本当にありがとう。」 もう一度、心の中で呟いた。 ―――――――――――――――――――――― ――――――――――――――――――――――― ワタクシは、月城先輩を見つけた。 「今日は、来てくださって、ありがとうございます。」 「彩、よく頑張ったな。部員が一つにまとまってたよ。みんな、同じ方向を向いた音だった。だから、特別賞も授与できた!」 「はい。」 「今までお疲れ様。やっぱり、俺の言った通りだったな。お前ならできるって!!」 抑えていた涙がこぼれ落ちる。 「こらー、部長が、泣いたら、ダメだろ!」 ワタクシの身体をそっと胸に引き寄せてくれた。その胸の中で静かに泣き続けた。 ――――――――――――――――――――――――― ――――――――――――――――――――――――― 僕は、両親を探し、やっと会うことができた。 「演奏よかったですよ。ごめんね、もっと寄り添ってあげられなくて。響ちゃんの音を聞いた時、とても苦しかった。あんな音を出さすなんて、音楽家としても父さんとしても、失格ですね。」 「伝わったんだね、、」 琴父さんは、僕を抱きしめてくれる。 「ありがとう、、琴父さん、、、創父さんは?」 僕は、尋ねる。 「向こうにいるよ。」 肩越しに創父さんが、去って行くのが見えた。 僕は、追いかける。会場を出て、やっと創父さんに追いついた。 「創父さん!」 創父さんは、僕を見つめ、言った。 「まだまだだな。けど、及第点といったところか。」 笑っていた。 約三年ぶりの会話だった。 僕の目から涙が溢れ出し、涙が止まらない。 「創父さん、、僕、、、音楽続けるよ!!」 創父さんをしっかり見つめて宣言する。 「もっと励め。響ならできる。」 「はい!」 創父さんは、また歩き始めた。 今日、僕は、音楽の偉大さを再認識した。 ――――――――――――――――――――――――― 最後、音田先生から話があった。 「よかったですよ。みなさんの思いが、伝わりました。特別賞、おめでとう。そして、今日は、お疲れ様でした。」 先生は、後のことを部長に任せると言い去った。 「ごめん。ちょっと、気になることあって、」 「響君?」 響君は、先生を走って追いかける。僕も気になって追いかける。 「先生!!」 「どうしましたか?」 「はぁ、はぁ、、どうして、、、今回だけは、こんなに指導してくださったんですか?」 「絆を初めて聞いた時、あなたの気持ちが伝わりました。あなたの辛さ、そして、みなさんと出会ったことによる救い。様々な感情がこの曲に込められていると感じました。だから、よりいい形でその思いを届かせてあげたかった。あなたには、私みたいに、なって欲しくなかったから。」 先生は、笑顔で響君を見つめる。 「君は、いい音楽家になれる。」 「先生、、ありがとうございました!!!」 「音楽は、素晴らしい。頑張って。」 歩きながら、左手を挙げ、手を振っていた。 「響君、、はぁ、、はぁ、、」 やっと、響君に追いついた。響君は、涙を浮かべ、僕を見つめた。 「愁君。僕を音楽の世界に戻してくれてありがとう。」 今まで見たことのない笑顔で言う響君の顔を見て、僕の目から涙が落ちた。 「おーーーい!!!!」 凛君が走ってくる。 「部長、怒ってるぞ。勝手に出ていくなってーー!!!」 「ごめん!戻ろう!」 「うん!」 軽やかに走り出す響君の後ろ姿は、この先の未来を明るく照らしてくれる感じがした。 こうして、僕たちの定期演奏会は無事に終わった。

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