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第4章:登山大会 4-1 夏休み明け
あの海旅行から特に変わったことは起きなかった。
僕は、大学受験のために家で黙々と勉強をし始めた。その合間に、グループリンクでは、この間の海旅行の写真がたくさんアップされていた。その写真を見ながら、改めて楽しかったなと感じる。
藤澤君から言われた言葉を思い出す。
「来年も一緒に来よう。」
その言葉が心の中で反響する。一緒に行けたらいいなと思う。
今までの夏休みを振り返ってみると、それほど多くの友達と関わることもなく、平凡な夏休みを過ごしてきた。大人数で旅行することは今までの僕ではありえなかったけれど、実際に僕は、みんなと海へ行った。それがとても嬉しかった。高校最後の夏休みは、今までやったことのない多くの思い出と幸せに包まれた。
夏の暑さを少しだけ残しつつ、新学期が幕を開けた。
「今日から、二学期だね」
咲父さんが朝ごはんを食べている僕に言う。
「うん。あっという間に夏休みも終わっちゃったー」
「今年は、愁ちゃんにとって、有意義な夏休みになったんじゃない?」
「そうだねーたくさん思い出作れてよかったよ!」
「おはよう!」
夏兄が起きてきた。
「おはよう!」
「そうか、もう二学期か、高校生は、大変だなー」
「いいなぁ、、大学生は、まだ夏休みがあって、、」
「愁も来年は、大学生だろ!その前に大学に入らねぇーとな!」
夏兄が笑ってからかう。
「もうー、夏兄のいじわるー!!」
「もうこんな時間。愁ちゃん、遅れるよ!」
咲父さんが急がせる。
「うん!行ってきまーす!!」
僕は、元気よく玄関の扉を開けた。太陽の光が、少しまぶしく感じたけれど、空気は、どこまでも澄んでいる。深呼吸をして学校へと足を向ける。
学校へ行く途中、たくさんの高校生を見た。みんな、今日から新学期が始まるみたいだ。学校にもうすぐ着く途中で響君と出会った。
「おはよう!」
「おはよう!今日から二学期だね。」
「そうだねぇ、、夏休みあっという間だったねぇ、、朝起きるのちょっと辛かった、、」
僕は苦笑いをする。
「わかるよ、」
「意外、、響君も生活リズム崩れたりするの?」
「そりゃ、僕だって、少しは崩れるよー」
響君が笑っていた。
「なんだか、安心したよー」
僕たちは、学校に着き、響君と別れ、自分のクラスへ向かう。
「おはよう!」
優君が話かけてくる。
「おはよう!二学期始まっちゃったねー」
「うん、夏休みあっという間だったもんね、、」
僕は、優君と少し談笑した。絵のアイデアが浮かんで、制作に取り掛かっているらしい。
「おはよう!」
凛君が話かけてくる。楽しく話していると、武藤君と重岡君が教室に入ってくる。
「よっ!海以来だな。俺に会えなくて寂しくなかったか?」
ニヤニヤしながら聞いてくる。
「別にーむしろ、せいせいしてたよー」
僕は、微笑みながら嫌みを言ってみた。
「言ったな!!」
そう言うと、くすぐってきた。
「勇は、朝から元気だよなーー」
凛君が呆れて見ていた。ふと目をやると、優君と重岡君が仲良く話している。
順調なんだなぁーと感じた。
「おはようー」
藤澤君が話しかけてきた。
「おはようー」
久しぶりに会う藤澤君は、海の時と変わらずかっこよかった。少し見とれてしまう。
「どうした?」
「ううん。」
僕は、目を逸らす。
「愁君―ーー」
凛君がニコニコ笑ってる。
凛君は、たぶん気づいてるんだろうなぁ、、、
元カレとして、僕が藤澤君を好きなことをどう思っているのだろう、、
坂木先生が入ってきた。
「みなさん、おはようございます。今日から二学期が始まりますね。だいたいの人が部活動を引退したと思います。これからは、大学受験に向けて全力で勉強していきましょう。それから、二学期は多くの行事が控えています。登山大会から始まり、体育祭、そして、文化祭。勉強が疎かにならないように、全てにおいて全力で頑張りましょう。さっそく、席替えをします。一学期と同じ手順で行います。」
クラスがざわめく。藤澤君から離れる可能性があることに切なさを覚えた。
離れたくない、、、
席替えの結果、僕は、ちょうど真ん中の席になった。右横には、優君、左横には、東条君がいた。
「よかった。優君が近くにいて」
僕は、嬉しかったけれど、藤澤君は、僕の席から離れたところにいた。
武藤君もかなり離れたところになる。凛君は、武藤君の隣だった。
班も決まり、話したことがあるのは、優君と東条君だけだった。
「よろしくね。愁くん。」
東条君が、ニコリと笑う。
「僕の方こそ、よろしく」
東条君とは、海の時、あんまり話せなかったけど、いつもニコニコしていて愛想がいい人だと思った。
こうして、二学期は、切なさを感じつつ幕が開いたのだった。
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