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4-2 登山大会

二学期も始まり、徐々に生活リズムを取り戻してきた。 藤澤君の席が遠くなり、話す機会が減ってしまうことにがっかりしたけれど、思いのほか、話しかけてくれた。単なる立ち話だけど、僕にとっては、その時間がとても幸せだった。武藤君は、海旅行以来、今まで以上に絡んでくるようになり、その絡みにも慣れてしまった自分がいて、これはこれでいいのかなと思うことにした。 「愁くん、おはようー!」 東条君が無邪気な笑顔で話しかけてくる。東条君と同じ班になったおかげで、前よりも仲良くなることができた。 「おはようー!」 「朝から数学だねーオイラ、苦手だよ、、」 「僕も苦手だよ、、」 「同じだねー」 いろいろと話していると、坂木先生が入ってきた。 「みなさん、おはようございます。今日は、登山大会についてお話します。知っていると思いますが、わが校は、毎年三年生が九月の終わりに登山をすることが恒例行事となっています。そこで、登山に向けて、一部時間割が変わります。この時間割も始業式後に渡しましたスケジュール表を見てもらえれば確認できます。そこで、今日は共に登山をするパーティーを決めます。いつものようにくじで決めますので、引いてください。」 登山か、、、、不安しかないなぁ、、、、 運動神経もよくないし、みんなに迷惑をかけたらどうしよう、、、、 あれこれ思い悩んでいたら、全員くじを引き終えていた。 「各自そこに書いてある同じ数字の人が同じパーティーになります。」 その結果、班は、武藤君、藤澤君、東条君、凛君、僕の五人となった。 藤澤君と一緒になれたことが嬉しかったけれど、みんなに迷惑をかけてしまうことを気にしていた。 「これから、登山関連の授業は、全てそのパーティーで受けてください。決して、登山を甘くみないように、各自が肝に銘じておいてくださいね。今日は、以上です。それでは、みなさん、今日も一日頑張りましょう。」 「また同じ班になれたな、よろしくな!」 武藤君が僕の肩に手をかける。 「僕の方こそよろしく。足を引っ張るかもしれないけど、、」 僕は、不安だった。 「気にすんな!何かあったら俺が守ってやるよ!」 武藤君は、笑顔でそう言ってくれた。 「マイペースでいいんだぜ!」 「だな。」 凛君と藤澤君も元気づけてくれる。 「みんな、がんばろうー。」 東条君も、明るく勇気づけてくれる。 みんなから励まされ、仲が良い人達と登山ができることに安心感を覚え、このパーティーなら大丈夫だと思えた。 今日の授業が終わり、下校準備をする。 部活を引退したので、音楽室へ向かわずそのまま帰ることが日常となり、少しだけ音楽室が名残惜しかった。引退以来、下駄箱で響君と待ち合わせて一緒に帰ることにしていた。下駄箱に着くと、響君が待っていてくれた。 「待った?」 「今来たところ、帰ろっかー」 「うん」 「明日から、登山の授業が始まるね。なんだが、不安だね、、、、」 「パーティーは、もう決めた?」 僕は、パーティーメンバーを響君に伝える。 「この前の<海メン>とほとんど同じだねー」 「そうなんだよー、みんな知っている人でよかったよ!けどさぁ、、何で、登山なんかするんだろう、、しかも三年生の忙しい時に、、、」 「確か、創立者が無類の登山好きとかで、それが伝統行事になったはず、、今は、肉体・精神の両面から鍛える意味もあるって言ってたかなぁ、、」 響君が、思い出しながら話してくれる。 「登山好きかぁ、、それにしても不安だなぁ、、」 「大丈夫だよ。何かあったら、藤澤君あたりが守ってくれるよ。」 僕を見てニコリと笑った。 「ちょっ、変なこと言わないでよ、、」 急に藤澤君の名前が出て慌ててしまう。 「けど、、実際は、どうなの?」 「えっ、別に、どうもないよ、、、、」 「ふーん」 「なんだよーー」 「別にーー」 「もうーー響君ったら、、、」 僕らは、二人して笑った。 ところどころ、虫の鳴き声がする。 夏の暑さを残しつつも少しずつ秋の訪れを感じることができる。 果たして、僕の登山は、どうなるのだろうか、、、

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