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5-3 どよめき
あの事件以来、武藤君は僕に何も話かけなくなった。
どこか、関係が壊れてしまったような気がする。
武藤君と藤澤君の間にも、今までとは違う溝があるように感じた。
「愁君。大丈夫?」
優君が、話かけてくる。そういえば、お昼ご飯を食べている途中だった。
「ごめん、なんだっけ?」
「もう、、体育祭の出る種目だよ。午後に、決めることになってるんだよ。まだ、決まってないって言ってたけど、もう決まった?」
「あっ、、そうだったね、、、玉入れとかがいいかなぁ、、、ハハハ、、」
「ねぇ、、愁君、武藤君と何かあったの?」
優君は心配そうな顔をしている。
「ううん、何にもないよ、、、」
「そっかぁ、あんまり考えすぎないようにね、、」
「あ、ありがとう、、」
優君の優しさが伝わってきた。
午後になり、坂木先生が入ってくる。
「はい。今日は、前回言ったように体育祭の出場種目を決めます。その前に、学年全体種目を発表します。今年は、棒倒しです。」
教室内がざわつく。
マジか、やばいな、、、
何すんの?
いろんな言葉が聞こえてきた。僕は、棒倒しという種目を知らなかった。
「はい。静かに。知らない人もいると思うので、まずは、DVDを見てもらいます。」
棒倒しをやっている実際の動画を見せてくれた。
やべぇー、、、
いや、ないでしょ、、、
教室内は、またどよめき始める。
「ウチは、無理ーー、、」
優君が、嫌そうな顔をしている。
「そうだね、、、」
「、、愁君?」
僕は、DVDを見ても、心は違うところにあった。
棒倒しなんか、正直どうでもよかった。
僕の頭の中には、騎馬戦、ただそれだけしかなかった。
「映像でわかるように、棒倒しは、とても危険な競技です。先生たちの間でも様々議論しましたが、わが校の校訓として掲げている「質実剛健」にふさわしいということで決まりました。当日に向けて、体育の授業でもしっかりと準備をしていきますので、そのつもりでいてください。ここからは、出場種目を決めます。前回言ったように一人最低二つは出場してもらいます。最低二回は、手を挙げてくださいね。それでは、この前、配ったプリントをもとに、黒板に種目を書いていきます。」
プリントに書いてある種目が黒板に書き出される。
「はい、じゃあ、まずは、リレーですね。出場したい人は、手を挙げてください。」
何人かが手を挙げ、人数もそれほどいないのでそのまま決まった。
どんどん出場者が決まっていく。
「次は、玉入れですね。」
僕は、手を挙げた。玉入れの定員は、多めにとってくれていたので、くじで決めることにはならなかった。僕は、一つ目の競技として玉入れが決まった。
「次は、パン食い競争ですね。」
優君が手を挙げた。手を挙げない僕を見て驚いている。パン食い競争は、ギリギリ定員内だったから、くじを行わなかった。僕が手を挙げていたら、くじをしていたんだろう。
「愁君?パン食い競争じゃなかったの?」
優君が、驚きを隠さず話かけてきた。
「うん、ごめんね、、」
僕は、力なく笑った。
「残りって、、、、」
僕は黙って前を見つめた。
「最後は、騎馬戦ですね。」
僕は、まっすぐ前を見つめ手を挙げた。
他には、武藤君と藤澤君と何人かが手を挙げている。
先生は、明らかに驚き、教室内にどよめきが走った。
「えっーと、山口君。立候補してくれたのは、大変嬉しいことですが、騎馬戦で間違いないですか?」
先生も含め、みんなが僕の回答を待っている。
「間違いないです。」
僕は、静かに宣言した。
少しの沈黙のあと、
「わかりました。はい、今日は、以上です。」
坂木先生が教室から出て行った。
「愁君、ホントに大丈夫?どうしちゃったの?」
優君が心配している。
「大丈夫だよ、、、」
「それならいいんだけど、、、」
僕は、少しずつ覚悟を決めていた。
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(視点:藤澤君)
驚いた顔をしている瞬が話しかけてくる。
「えっー恭くん、騎馬戦出るなんて、初めて知ったよぉーー。何かあったの?」
「別に、何もない。」
「あの愁くんが出るんだよ!絶対何かあるでしょ!!」
「別に何もないって、」
俺は、適当な返事をした。
「えー、けちー、教えてよー、、」
「しつこい。」
「えー」
瞬は、ずっと文句を垂れていた。
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(視点:武藤君)
凛と玄が話しかけてきた。
「勇、愁君と何があったんだ?どう考えても愁君が騎馬戦に出るなんておかしいだろ!」
凜が、若干キレぎみだ。
「別に、なんもねぇーよ、」
「いーや、絶対何かあるな!なっ、玄!」
「そうですね。山口君が騎馬戦に自分から希望するとは、考えられませんね。勇、言えないことですか?」
玄は、いつものように冷静だ。
「全部終わったら、話す。」
俺は、外の景色を見つめた。
二人とも俺に気を使ってくれて、それ以上何も聞かなかった。
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