51 / 91

5-3 どよめき

あの事件以来、武藤君は僕に何も話かけなくなった。 どこか、関係が壊れてしまったような気がする。 武藤君と藤澤君の間にも、今までとは違う溝があるように感じた。 「愁君。大丈夫?」 優君が、話かけてくる。そういえば、お昼ご飯を食べている途中だった。 「ごめん、なんだっけ?」 「もう、、体育祭の出る種目だよ。午後に、決めることになってるんだよ。まだ、決まってないって言ってたけど、もう決まった?」 「あっ、、そうだったね、、、玉入れとかがいいかなぁ、、、ハハハ、、」 「ねぇ、、愁君、武藤君と何かあったの?」 優君は心配そうな顔をしている。 「ううん、何にもないよ、、、」 「そっかぁ、あんまり考えすぎないようにね、、」 「あ、ありがとう、、」 優君の優しさが伝わってきた。 午後になり、坂木先生が入ってくる。 「はい。今日は、前回言ったように体育祭の出場種目を決めます。その前に、学年全体種目を発表します。今年は、棒倒しです。」 教室内がざわつく。 マジか、やばいな、、、 何すんの? いろんな言葉が聞こえてきた。僕は、棒倒しという種目を知らなかった。 「はい。静かに。知らない人もいると思うので、まずは、DVDを見てもらいます。」 棒倒しをやっている実際の動画を見せてくれた。 やべぇー、、、 いや、ないでしょ、、、 教室内は、またどよめき始める。 「ウチは、無理ーー、、」 優君が、嫌そうな顔をしている。 「そうだね、、、」 「、、愁君?」 僕は、DVDを見ても、心は違うところにあった。 棒倒しなんか、正直どうでもよかった。 僕の頭の中には、騎馬戦、ただそれだけしかなかった。 「映像でわかるように、棒倒しは、とても危険な競技です。先生たちの間でも様々議論しましたが、わが校の校訓として掲げている「質実剛健」にふさわしいということで決まりました。当日に向けて、体育の授業でもしっかりと準備をしていきますので、そのつもりでいてください。ここからは、出場種目を決めます。前回言ったように一人最低二つは出場してもらいます。最低二回は、手を挙げてくださいね。それでは、この前、配ったプリントをもとに、黒板に種目を書いていきます。」 プリントに書いてある種目が黒板に書き出される。 「はい、じゃあ、まずは、リレーですね。出場したい人は、手を挙げてください。」 何人かが手を挙げ、人数もそれほどいないのでそのまま決まった。 どんどん出場者が決まっていく。 「次は、玉入れですね。」 僕は、手を挙げた。玉入れの定員は、多めにとってくれていたので、くじで決めることにはならなかった。僕は、一つ目の競技として玉入れが決まった。 「次は、パン食い競争ですね。」 優君が手を挙げた。手を挙げない僕を見て驚いている。パン食い競争は、ギリギリ定員内だったから、くじを行わなかった。僕が手を挙げていたら、くじをしていたんだろう。 「愁君?パン食い競争じゃなかったの?」 優君が、驚きを隠さず話かけてきた。 「うん、ごめんね、、」 僕は、力なく笑った。 「残りって、、、、」 僕は黙って前を見つめた。 「最後は、騎馬戦ですね。」 僕は、まっすぐ前を見つめ手を挙げた。 他には、武藤君と藤澤君と何人かが手を挙げている。 先生は、明らかに驚き、教室内にどよめきが走った。 「えっーと、山口君。立候補してくれたのは、大変嬉しいことですが、騎馬戦で間違いないですか?」 先生も含め、みんなが僕の回答を待っている。 「間違いないです。」 僕は、静かに宣言した。 少しの沈黙のあと、 「わかりました。はい、今日は、以上です。」 坂木先生が教室から出て行った。 「愁君、ホントに大丈夫?どうしちゃったの?」 優君が心配している。 「大丈夫だよ、、、」 「それならいいんだけど、、、」 僕は、少しずつ覚悟を決めていた。 ――――――――――――――――――――― (視点:藤澤君) 驚いた顔をしている瞬が話しかけてくる。 「えっー恭くん、騎馬戦出るなんて、初めて知ったよぉーー。何かあったの?」 「別に、何もない。」 「あの愁くんが出るんだよ!絶対何かあるでしょ!!」 「別に何もないって、」 俺は、適当な返事をした。 「えー、けちー、教えてよー、、」 「しつこい。」 「えー」 瞬は、ずっと文句を垂れていた。 ―――――――――――――――――――― ――――――――――――――――――――― (視点:武藤君) 凛と玄が話しかけてきた。 「勇、愁君と何があったんだ?どう考えても愁君が騎馬戦に出るなんておかしいだろ!」 凜が、若干キレぎみだ。 「別に、なんもねぇーよ、」 「いーや、絶対何かあるな!なっ、玄!」 「そうですね。山口君が騎馬戦に自分から希望するとは、考えられませんね。勇、言えないことですか?」 玄は、いつものように冷静だ。 「全部終わったら、話す。」 俺は、外の景色を見つめた。 二人とも俺に気を使ってくれて、それ以上何も聞かなかった。 ――――――――――――――――――――――

ともだちにシェアしよう!