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5-2 それは突然に

昼休み前の現代文の授業中、坂木先生の話を聞きながら、明日の競技決めのことを考えていた。 どれにしようかなぁ、、 最低二つ決めないといけないのに、、、、 候補に挙がっているのが、玉入れとパン食い競争だ。 もし希望者が殺到したら、絶対くじになるしなぁ、、、 くじで外れて、ひどい競技になったら、それはそれで困るしなぁ、、、 あぁ、どうしよう、、、、 もし、希望者が多いとなると、次は、二人三脚かなぁ、、 ムカデ競争はないよね、、、 リレーは絶対に無理だし、、、、 とりあえず、第一希望は、玉入れで、第二希望は、パン食い競争で手を上げよう!! やっと、考えがまとまった時、授業が終わった。 お昼ご飯の準備をしている時、武藤君に話しかけられた。 「よぉ、少し話せるか?」 「う、うん」 僕たちは、教室の外へ出る。 「あのさ、今日の放課後、あいてるか?」 「うん、大丈夫だけど、どうしたの?」 「いや、ちょっと、話したいことがあってな、、」 武藤君は、頭をかいていた。 「わかった、、」 「よろしくな!」 僕の肩をたたいて、どこかへ行ってしまった。 「どうしたの?」 教室に戻ると優君が聞いてきた。 「なんか、放課後、話があるって、、、」 「嘘ーー告白なんじゃない?」 「えっ、、、それは、ないよー、、」 「んーそうかなぁ、、武藤君、やっぱり愁君のこと好きだと思うんだよねぇ、、、」 「えー、やめてよ、、、」 「もしさぁ、告白されたらどうするの?」 「うーん、、、、、、」 僕は、答えられなかった。 「もう、、この話は、なしーー、、さぁお昼ご飯食べようよ!!」 武藤君から告白されたら、僕は、どうしたらいいのだろうか。 さっきの武藤君は、いつもより、どこか様子がおかしかった。 告白されるのかなぁ、、 そもそも武藤君は、僕が好きなのだろうか、、、 いろんなことを考えているうちに、東条君とお昼ご飯を食べている藤澤君を見つめていた。気づいたら、目が合い、藤澤君は、少し笑った気がした。 最近、僕と話していると、笑うことが多くなった気がする。 藤澤君は、僕が武藤君に告白されたらどう思うのだろうか、、 付き合えば?って言うのだろうか、、、 それとも、嫌がってくれるのだろうか、、、 思い悩んだまま、放課後を迎えた。 事情を響君に伝え、先に帰ってもらうことにした。 教室にいた人たちは、まだ部活をやっている人は部活へ、図書館で勉強する人は図書館へ、塾へ通っている人は塾へ、それぞれの目的地へ向かって散り散りになっていく。 そして、教室には、僕と武藤君だけが残った。 武藤君が、ゆっくりと僕に近づいてくる。 「どうしたの?何かあったの?」 どうしよう、、、 告白されるのかぁ、、、 次第に心臓が高鳴っていくのがわかる。 「愁が好きだ。」 そう真剣な眼差しで言われた。 窓から秋風が教室を吹き抜ける。 「そ、んな、急に、、」 ストレートな言葉が僕を貫き、うつむいてしまう。 どうしよう、、、武藤君のことは好き、、 けど、それは、友達としての好きで、恋心はそこにはない、、、 僕は、藤澤君が好きなんだ、、、 「俺を、見てくれ。愁のことが、好きなんだ。」 武藤君は僕のあごを優しく手で持ち視線を合わせる。 あー、どうしよう、、いつもと違う武藤君、、 いつもは、ふざけてからかってくるのに、、、 今の武藤君は、真剣な目で僕の目を離してくれない。 「ちょっ、、、と、」 僕は、視線をそらした。 「やっぱり、好きなやつがいるのか?」 黙っている僕を見て、武藤君は、僕のあごから手を離し、視線をそらした。 そして、近くの机に座る。 「藤澤のことが好きなんだろ?」 外の景色を見ながらポツリと言った。 その横顔は、いつもと違い武藤君らしくなかった。 僕は、ただ沈黙することしかできなかった。 「もし、俺があいつに勝ったら、俺と付き合ってくれないか?」 「それは、、、」 それは、できない。そう言いたい。 けれど、言ってしまうと武藤君のことを傷つけるんじゃないのか、、 もう前みたいな関係には戻れないんじゃないのか、、、 それは、とても辛いことだった。 ふと武藤君との思い出が蘇る。 普段の授業、海旅行、登山、、常に僕を考えてくれた人だと思った。 答えは出ているのに、それを言ってしまうと、もう戻れないかもしれない、 あの幸せな思い出が、色あせた思い出として消え去るかもしれない。 いつしか、僕の目には、たくさんの涙が溢れていた。 「お前ら何してんの?」 突然、黒のユニフォーム姿の藤澤君が入って来た。 僕は、藤澤君の顔を見た。 「山口?泣いてるのか?」 「ううん、違うよ、、、ただ、目にゴミが入っただけで、、、なんでもないよ、、、」 僕は、笑ってみせた。 武藤君は、外の景色を見たまま、何も言わない。 「武藤、山口に何かしたのか?」 藤澤君は、武藤君に近づく。 「別に、」 そっけなく呟いた。 「じゃあ、何でこんなに泣いてんだよ。」 藤澤君の語気が強くなる。 武藤君は、座っていた机から立ち上がり、今まで見たことのない目で藤澤君を睨んだ。 「藤澤、俺と勝負しろ。」 「勝負?」 「そうだ。俺とお前、どっちが愁にふさわしいか決める。」 「はっ?勝手なこと言うなよ。」 「ちょっと、武藤君、待ってよ、、勝負って、、、」 「愁は、黙っとけ。俺は今、藤澤と話してる。」 武藤君は、決して藤澤君の目を離さない。 二人から今まで感じたことのない怖い気迫が伝わってきた。 「俺に負けるのが怖いのか?」 「誰が、お前なんかに負けるかよ。」 「じゃあ、決まりだな。勝負は、体育祭の騎馬戦だ。お前と愁は、白組。俺は、赤組。愁の体型から、プリンスになるだろう。俺らはおそらくナイトだ。俺が、愁を全力で奪いに行く。お前が俺から愁を守れなかったら俺の勝ちだ。」 「わかった。」 僕は、ただ二人の会話を見ていることしかできなかった。 どうして、こうなったのだろうか、、 涙が、また流れてくる、、 あぁ、、止まらない、、 「そういうことだ。愁には、悪いけど、騎馬戦に出てもらう。」 武藤君が僕の肩を優しく叩いた。 その顔は、痛々しくて、触れたいぐらいだった。 「ごめんな。」 そう耳元で静かに囁くと、武藤君は出て行った。 「ごめん。巻き込んで。」 藤澤君は、元気がなくて、その顔も武藤君と同じぐらい痛々しく見えた。 「ううん、、大丈夫、、」 そう言うことしかできなかった。 また一つ、秋風が吹いた。その風には、切なさを乗せている。 こうして、体育祭が始まろうとしていた。

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