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6-6-1 願い

文化祭当日。 昨日は、緊張してよく眠れなかった。不安と緊張を抱えながら学校へ向かった。教室へ着くと、みんなに促されるように用意された服に着替える。髪を長く見せるために、ウィッグをつけ、メイクもされた。 ふと、藤澤君を見ると、目が合って、微笑んでくれた。 コック姿の藤澤君は、いつも以上にかっこいい。 緊張するけど、ちゃんと、僕の思いを届けたいな、、 そう強く思う。 「愁君?」 優君が僕を見て驚いている。けれど、僕も優君の可愛さに驚いた。 「そうだよー優君、可愛いね!!」 「えっー、愁君の方が、かっこよくて、可愛いよ!!」 お互いに褒め合った。 凛君と東条君も別人のようになり、みんなを驚かせた。 時間となり、ヴィジュアル系カフェの開店だ! 順調にお客さんは来てくれて、ウエイトレスとしてしっかり仕事をした。 あっという間に【歌コン】の時間が来てしまい、ヴィジュアル系カフェをみんなに任して抜けさせてもらった。服を着替え、メイクを落とし、響君と体育館へ向かう。会場には、たくさんの人がいて、舞台袖へ行くと、みんな、緊張した顔だ。 「さぁ、文化祭、注目のイベント【歌コン】の開催です!!友情、感謝、愛、様々な思いを乗せて、みんなが歌ってくれます!感動すること間違いなしです!それでは、歌コンのスタートです!」 とうとう始まった。 順調に一人ずつ終わる。みんなの歌は、リハーサルよりも上手に聞こえた。 僕の前の人が終わり、その人が舞台袖へ戻って来た。 「次、頑張ってね」 「ありがとう。」 あぁ、僕の番が来てしまった。 緊張で心臓がバクバクしている。 あぁ、不安だ、、 間違えたら、どうしよう、、、 ちゃんと届けたいのに、不安が押し寄せてくる、、 「愁君ならきっと大丈夫!」 横にいる響君が僕の手を握りニコリと笑ってくれた。 そうだよね。僕には、響君もついているんだ。 大丈夫。きっと、うまくいく。 僕の思いをちゃんと届けよう。藤澤君に。 「【歌コン】も最後となりました。さぁ、ラストを飾ってくれるのは、この方です!」 司会者に登壇するように案内された。 ステージへ上がると、照明が僕を照らす。 「今回、【歌コン】のために作詞をされたそうですね。どんな気持ちで作詞をされましたか?」 「えっと、、好きな人を思って、僕の気持ちが届けばいいなと思い作詞をしました。」 「素敵ですね。作曲は、お友達がされたとか?」 「はい、親友の音宮君が、この詩に合った曲を作ってくれました。」 「いいお友達ですね。それでは、歌ってもらいましょう!」 「〈願い〉」 会場が暗くなり、照明が僕だけを照らす。 僕は、目を瞑る。そして、藤澤君のことを考えていた。 高校一年生の放課後。ふと見た校庭。そこで、ひと際、楽しそうにボールを蹴る人がいた。僕の中に爽やかな風が吹いた。一目惚れだった。少しして、その人の名前を知った。その人は、みんなから人気があって、僕なんかが相手にされるわけないと思った。気がつくと、放課後は、いつも校庭を見ていた。姿を見るたびに、胸が締め付けられた。忘れよう、何も見なかったことにしよう、僕には、到底似合わない人だから。そう自分に言い聞かせ、単調な日常生活を歩もうと決めた。そう思っていたのに、高校三年生で同じクラスになった。諦めようと思っていたのに、奥底に眠る感情が、また芽を出した。偶然、席が隣になり、初めて、近くで見た。一年生から見ていた時と、何も変わっていない。あぁ、やっぱり好きなんだ。思い描いていたイメージと違い、あまり笑わない人だった。班まで一緒になって、化学準備室での出来事、体育での出来事でますます好きになっていく。凛君と付き合うようになって、やっぱり諦めようと思った。けど、すぐに別れたと知った。もしかしたら、僕にもまだチャンスがあるのかなと思ってしまった。そして、海へ行った。少しずつだけど、仲良くなれた。藤澤君が、少しずつ笑うようになり、最後には、来年も一緒に来ようと言ってくれた。それがどんなに嬉しかったか。登山では、一緒にビバークをしてくれて、不安で、押しつぶされそうな僕を、後ろから強く抱きしめてくれた。藤澤君をもっと近くで感じていたい。もっと、そばにいたい、そう強く思うようになった。それから、体育祭では、ボロボロの僕を慰めてくれた。僕の中で、どんどん欠かせない存在になったんだ。 もうこの胸の中には、抑えきれない。この思いを届けたい。 僕は、藤澤君のことが好きなんだ。大好きなんだ。 そして、ゆっくりと目を開けた。その先に、藤澤君がいて、僕をまっすぐ見つめていた。この空間が、僕と藤澤君のためだけに用意されたものだと感じる。 二人を繋ぐ見えない糸。 あぁ、届けたい、僕の溢れる思いを、、 響君が前奏を弾き始める。その音は、どこまでも優しくて、力強い。 僕は、思いを込めて歌い始めた。

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