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第5話

 気が付いた時、俺はシロを抱きしめて、ハアハア荒い呼吸を繰り返していた。頭が真っ白だ。ああ、疲れた。このまま寝たい……目を閉じかけて、ハッとした。  俺は、俺は何をした。  慌てて体を起こすと、下に組み敷いたシロが、ぼんやりと俺を見上げている。その表情は、無だ。視線を下腹部にやるとシロの、人間を真似したソレも目に入った。出してない。どころか、力も持ってない。にも関わらず。 「あ、あ……俺……」  好き放題シロを突いて、俺だけ気持ちよくなって、おまけに中に出してしまったんだ。俺は背筋が冷えていくのを感じた。こんなこと、しちゃならない。しちゃならないのに。 「……神田様……」  シロは掠れた声で言った。 「御恩は、お返しできたでしょうか?」  それで俺はもう耐えられなくて、シロをギュッと抱きしめると、ごめん、ごめんな、と繰り返した。  こんなの、ただのオナホか交尾と同じだ。散々人間のセックスは雰囲気がどうとか言っておいて、最後に俺は、自分が気持ちよくなるためにシロを使ってしまったんだ。激しい後悔で俺は泣きそうだ。実質童貞のままいい年になって、チャンスに飛びついたクソ野郎だ。死にたい。 「神田様……?」 「シロ、シロ、ごめん、シロにも気持ちよくなって欲しかったのに……」 「? 私は、神田様にご満足頂ければそれで……」 「違う、違うんだよ、シロ、人間のセックスっていうのは、そういうんじゃないんだ……」  ぐす、と鼻をすすりながら言っても、シロは不思議そうな顔をしていた。ただ、自分が恩返しに失敗したことは理解したらしい。残念そうに目を伏せて、「神田様」と名前を呼んでくる。 「もし、神田様さえよければ、もう一度機会を与えて頂けませんか……?」 「ん、うん……」 「次の満月の夜にはなってしまいますが……。その時は、必ず神田様をご満足させてみせます」  そもそも、シロのせいでもなんでもないんだけど……。俺は思ったが、つまりこれは、俺にもリベンジのチャンスが与えられたということだ。次こそ、次こそ。 「うん、わかった、次こそ、シロも気持ちよくしてやるから……」  ぎゅっと抱きしめてキスをする。シロは大人しくされるがままで、俺はなんだかよくわからないけど、すっかりこのヘビに情が湧いてしまっていたのだった。  目を覚ますと、目の前に、でけぇ白ヘビがとぐろを巻いてた。 「うっひぁあああ!! うわあああ、え、ええ?!」  俺は絶叫して布団から飛び上がって、部屋の隅まで逃げた。全裸で。なんもかも丸出しで逃げた。は? なんで? 寝ぼけた頭がフル回転して、昨日のことを思い出すまでに少しかかった。そうだ。満月の夜しか人の姿になれないんだって、なんか言ってたわ。 「……し、シロ……?」  恐る恐る声をかけると、ヘビはチロチロと舌を出しながら、ぬるぬるこちらに向かってきた。うひぇ、気持ち悪い。こっちに来るのかと思ったら、シロは少し方向を変えた。そっちを見ると、玄関がある。ああ、帰るのか。 「ちょ、ちょ、っと、待っててな!」  俺は全裸のまま玄関を開けた。よく晴れた気持ちの良い朝だ、俺のブツが出てなければ。ここが田舎じゃなかったら俺はもう社会的にアウトだろう。よかった。処女のヘビとセックスした件についてはこの際アウトの判断基準に入れないことにする。  シロはぬるぬる玄関を出ていく。途中で俺の顔を見たので「また、来月な!」と言いながら俺は鳥肌をさすっていた。シロは納得したのかそのまま外に出て、家の前の林にしゅるしゅると消えていった。それを見届けて、玄関を閉める。  とりあえず俺は冷たい水で顔を洗った。しっかり目を覚まして、昨日のことを思い出す。夢じゃない、確かに俺は、シロを抱いた。というか犯した。ヘビ相手ならどうでもいい気がしていたが、あそこまで人間のやり方をレクチャーしておいて、あんな終わり方をしたのは本当に後悔してる。俺は、このままでは終われない。  そうだ。俺は必ず、シロをイかせてみせる……!  こうして俺は、早々におかしな方向に走り始めてしまった。

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