*花街* 　遊郭(ゆうかく)――安土桃山時代から長きにわたって現在も存在しているそれは幕府から公認された場所で、傾城町(けいせいまち)や郭(くるわ)、遊里(ゆうり)など様々な名称で呼ばれております。 　遊郭は色事を求めてやまない庶民のささやかな楽しみとして設けられたのでございました。ですが、この場所で働いている者たちにとっては牢獄のようなものでもございました。 　――というのも、彼らが逃げられないよう、遊郭の周囲は高い塀や深い堀などで囲われていたからでございます。 　人々は、遊郭で働いている春を売る者を娼妓(しょうぎ)と呼んでおりました。 　女を好む人間もいれば、当然男を好む人間もおります。男も女も、その中で働く者のほとんどが幼くして両親に先立たれ、独り身になった者――もしくは借金の取立てで売られてやって来た、貧しい生活を強いられた者たちばかりでございました。 　かくしてこの地へやって来た彼もしくは彼女らは皆、年の頃なら十歳前後で、まだ年端もいかない小さなお子でございました。 　彼らは狭い廓で芸を仕込まれ、女なら十六歳。男なら十二歳で初めてお客様を取るのでございます。 　これを水揚げといいます。 　水揚げ前は禿(かむろ)と呼び、新造(しんぞう)となって水揚げをした後の娼妓の世話をしたり、娼妓に複数のお客が登楼している場合は待たせているお客の話し相手をするのもその仕事の一部でした。