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焔(続編)13

 結局、冰はしばらくの間休学して香港の父親の元へと向かうこととなった。とりあえずのところは短期間で帰って来るつもりだそうだが、倫周の話では行ったきりになる可能性もあるという。父親が家族離れ離れで暮らすことを不安に思っているらしく、香港の地にて一緒に暮らしたいと強く望んでいるからだそうだ。まあ行ってみないことには何ともいえないが、息子の顔を見れば手放したくなくなるのではとのことだった。 「じゃあ……転校ということも有り得るってわけか?」  だとすれば、行く前にせめて級友たちに――とかく紫月には会ってからの方がいいのではないかと思う。 「まだ転校するって決まったわけじゃねえし。もしかしたらすぐ帰って来るかも……っていうか、仮に転校ってことになっても荷物なんかも取りに来なきゃだからさ」  冰は笑ったが、俺は何となく本能でこいつが転校を決めることになるような気がしてならなかった。 「冰――お前が帰って来るのを紫月と一緒に待ってるから」  そう言った俺に冰は素直に「うん」と言って淡く微笑んだ。 「な、遼二。紫月のことだけど――」 「ん?」 「あいつ、ホントはさ、すっげいいヤツなんだ。ノリが軽くて自信家で、チャランポランみてえに振る舞ってるけど――本当は人懐こくて寂しがり屋で、めっちゃ素直なヤツなの。普段のデカい態度はそういう部分を他人には見せたくないっていうヤツ特有の強がりっていうか、照れ隠しでさ。俺はガキん頃からあいつと幼馴染で育ったから、俺にだけは素直な自分を見せてくれるんだけど……」 「冰――」 「それにさ、あいつ。自分がゲイだなんてお前にも堂々公言してたけど、ホントはそういう……男の恋人がいるとかいうわけじゃねえんだ」 「そ……うなのか?」 「あいつ、見た目がめちゃくちゃ格好いいだろ? 昔っからよく女の子にもモテてさ。紫月を取り合って女たちが喧嘩することもしょっちゅうだったわけ。特に――あれは小学校の終わりくらいだったかな、紫月が原因で女子の一人がいじめに遭ったことがあってな。仲良く二人で掃除当番やったとか、ゴミ捨て行くのに一緒にゴミ箱持って歩いてたとか、些細なことでその子が他の女子たちから無視されたり嫌がらせを受けるようになって。結局その子、不登校になっちまったんだ」  以来、紫月は自分はゲイだから女に興味は無いと言い張ってきたのだそうだ。高等部に上がる際に男子専用の校舎――つまりは男子校ということになるが、学園はエスカレーター式だから女子のいない男子専用高等部に進学したということらしい。冰はそんな経緯を知っていたから自分も同じ男子校部門へと進学を希望したのだと言った。

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