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焔(続編)16
倫周らと別れた後、俺は一人――風穴の開いた心を抱き締めながら帰路についた。バイクで受ける晩秋の風は冷たく、俺の心も凍てついてしまいそうだった。
源さんのタバコ屋は既に閉まっていたが、繁華街のネオンは相変わらずに賑やかで、そんな喧騒がより一層孤独を突き付けてくる。そんな俺の心を癒したのは、ふと見上げた三階の窓に灯りが灯っているのを見た時だった。
通りに面した窓が少し開いていて、わずかに立ち上る紫煙が風に揺れている。
(紫月――)
まだヤツは居る。あの紫煙はきっとヤツのふかすタバコの煙――だ。
帰りを待っていてくれと言った俺の言葉通りにあの部屋で俺を迎えてくれる。
古びたビルの狭いコンクリートの階段を踏みしめながら、涙がこぼれそうになった。
ドアノブに手を掛ければ、鍵のかかっていない感覚が俺の胸を躍らせた。
「ただい……」
「遼二――!」
ダイニングの椅子を窓際に引っ張っていってタバコをふかしていた紫月の顔を見た瞬間、目頭が痛くなるほどに熱くなり涙が込み上げた。
「お……かえり」
紫月はタバコをひねり消してキョトンとした顔で俺を見つめている。
「遅くなっちまって……悪かった」
「ん、いって。もっと遅くなるかもって思ってたし……もしかしたら今夜は帰って来ねえかもって思ってたから」
悪かった――そう言って謝ると、紫月は『いーよ』と言って笑った。その笑顔にまたも涙が滲みそうになる。それらをごまかさんと、上着を脱いでハンガーに引っ掛ける。
「……源さんは? 階下か?」
二階の電気もついていたからおそらくそうだろう。
「うん。晩飯食いに連れてってもらった。そんで……暖房も。寒いといけねっつって、あの人がつけてくれた。お前いねえのに勝手にどうかなって……思ったけど」
そう言われてみて初めて部屋の暖かさに気付く。
「いや、構わねえ。源さんは俺の親も同然の人だから」
「そう……なんだ」
「メシ、何食ったんだ?」
「うん、炒飯。対面の中華屋さんでさ。すっげ高そうな店だったけど、奢ってもらっちゃった。メシもスープもめちゃめちゃ旨かった!」
「そうか。良かった」
たわいのない話が続いた。本当はもっと――話さねばならないことがたくさんあるというのに、どちらからも言い出せずに互いの胸の内を探り合うような視線を交わすのみだ。
こんなんじゃいけねえ。意を決して告げねばならないことを切り出した。
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