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「倫 ……お前、何故 ここに」
「久しぶり、遼二 。元気そうだね」
「……香港じゃなかったのか」
「うん、それは後で説明するよ。それより驚いた。まさかお前とこんな所で会おうとはさ」
「そいつぁこっちの台詞だ」
「お前さんがトイレに立つのを見掛けたのでね。後をつけてきたわけ」
それよりこんな所で何をしているのだと倫周 は不思議顔で俺に訊いた。それを知りたいのは俺の方だが、今は冰 の件が最優先だ。素直に理由を告げることにした。
「転入した先の同級生がやべえことに巻き込まれているようなんでな。心配になって後を追って来たんだが――」
「転入した先の同級生? まさか遼二 の通ってる学園って桜蘭学園なの?」
「――そうだが」
何故 俺の通う学園を知っている――? 一瞬そうも思ったが、倫周 とて俺と同様どっぷりと裏の世界で育った男だ。その気になれば朝飯前で調べはつくはずである。それよりももっと驚くことをヤツは言ってのけた。
「じゃあもしかして同級生っていうのは雪吹冰 君?」
「冰 を知っているのか……?」
「あ、やっぱり冰 君か。実は僕もちょっと訳ありでね」
「訳ありだ?」
その訳というのに関心をそそられたが、今はそれどころじゃない。
「倫 、すまねえ! 急ぎなんだ。その冰 のことで一刻も早く階下 の部屋に行かねえと……」
ところが倫周 は、「まあ待て」と言って余裕の笑みと共に俺を引き留めた。
「冰 君を救い出しに来たんでしょ? だったら大丈夫。実は僕も同じ目的でここへ来たんだ」
「同じ目的って……お前」
「彼が強要されていかがわしい目に遭ってる。遼二 もそれを知ってるんでしょ?」
「――俺も……ってことはお前も知ってるってのか?」
「そう。でも大丈夫。既に手は回してあるから。この天井裏に仕掛けられてるカメラを始末するのが僕の役目でさ。冰 君を救い出す役者はもう階下 で待機してるよ」
「待機って……。じゃあお前、誰かと一緒にここへ来たってのか?」
まさか――麗 さんか。一瞬そう思った。
この倫周 は父親の麗 さんを捜す為に香港に残ったからだ。
「麗 さんが……見つかったのか?」
「麗 ちゃん? あはは、違うよ。麗 ちゃんは未だ行方知れずさ。生きてるのか死んでるのかも分からない。ってよりも、お前さんが香港を後にしてからまだほんの数ヶ月じゃない。僕一人の力でこんなに早く見つけられるなら苦労はしないよ」
こいつは幼い頃から自分の父親のことを「麗 ちゃん」と呼んでいる。「お父さん」とか「パパ」と呼んだのを聞いた記憶がない。おそらくは幼少の頃から麗 さん自身がそう呼ばせていたのだろうが、確かに外見だけ見れば『父親』という印象とは程遠い、あの人らしい呼ばせ方だと苦笑させられる。
と、その時だった。階下に数人の気配を感じてカメラを覗けば、冰 が見知らぬ男たちに引き摺られるようにしながらやって来たことに心拍数が跳ね上がった。冰 を除けば男たちは五人程が確認できる。
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