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「冰 ……! やはりあいつ」
男の一人がヤツを突き飛ばし、ヤツはベッドを目掛けてつんのめった。今から例の画像にあったようなことが行なわれるのは確かだろう。焦る俺の肩を掴みながら、倫周 は「大丈夫だから」と言って薄く笑った。
「大丈夫って……だがお前……このままでは」
「いいから見てなって。手は回してあるって言ったでしょ」
冰 がベッドの柵に括り付けられいる手錠で拘束されそうになったその時だった。突如部屋の扉を破って、また別の男が現れた。
そいつはたった一人だったが、冰 を取り巻いていた五人をあっという間にその場に沈めてみせた。腕前もさることながら体格も堂々としていて貫禄を感じさせる男だが、年齢的にいえば意外に若いと思われる。
「誰だ――」
当然、倫周 が一緒に来たという知り合いの男なのだろうが、今の動きを見ただけで素人ではないことは確かだ。それも酷く手際のいい――仮に俺がこの男とやり合ったとして互角に持ち込めるだろうかとさえ思わせられるような無駄のない動き。
久しぶりに背筋に寒気が走るような感覚に襲われた。
その男が隠しカメラの向こう側にいる倫周 に合図を送るように、頭上を見上げてわずかに口角を上げる――。振り返ったそのツラには見覚えがあった。
「――! まさか周焔 ……か?」
驚きに目を剥いた俺を横目に、クスッと倫周 が笑った。
「ご明答! 今回、冰 君を助ける為にちょっと付き合ってもらったの」
「付き合ってもらったって……お前」
「でもさすがだね。たった一人で苦もなく五人もの連中を片付けちゃうんだから!」
周焔 ――ヤツは親父や麗 さんとも深い繋がりがあった香港を仕切るマフィアトップの息子だ。
歳は俺と同い年の十八歳。頭領 の息子には違いないが、ヤツの母親は妾の立場にあり、確か日本人女性だったはず――。兄貴が一人いるが、そちらは本妻の息子だ。
焔 は次男坊に当たるが、妾腹ということもあってか、幼い頃から何かと気苦労を強いられてきたらしいと、当時親父から聞いたことがあったのを思い出した。
「ね、懐かしいでしょ? 小さい頃は俺と遼二 もあの焔 君と一緒に遊んだじゃない。覚えてるでしょ?」
「ああ、お……ぼえてはいるが……」
一緒に遊んだといってもそれこそ幼少時のことで、かれこれ十年以上も会ってはいない。ガキの頃から大人びた面構えの男だったから、ヤツが周焔 ではないかということだけは分かったものの、それにしてもヤツは香港では頭上 がない裏の世界の頂点に君臨する周 ファミリーの御曹司だ。そんな男が高校生一人を救い出す為にわざわざ異国にまで出向いてくるとは正直驚かされてならない。
「実はね、冰 君のお父上には僕ちょっとご恩があってさ」
「恩――? お前、冰 の親父さんと知り合いなのか?」
「そ! 遼二 が香港を去ったすぐ後にね。知り合ったの」
詳しくは後で話すよと言って倫周 は仕掛けてあったカメラのチップを回収した。
「さあ急ごうか。もうここに用はない。おちおちしてたら要らぬ面倒に巻き込まれても迷惑だからね」
俺たちは一旦店を後にし、倫周の泊まっているというホテルへと腰を落ち着けることとなった。周焔 はここの後始末をつけてから後で合流するそうだ。
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