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「な、紫月(しづき)――。さっきは悪かった。その……おめえを無理矢理どうにかしようだなんて……。本当にどうかしていた。すまねえ。この通りだ――!」  目一杯頭を下げて謝ったら少しだけ心が軽くなった気がした。  それとは逆に、今度は紫月(しづき)の方が慌ててしまったようだ。窓際まで引っ張っていった椅子を倒す勢いで立ち上がって、ブンブンと首を横に振っている。 「あ……れは、おめえのせいじゃねって! 俺が……ヘンなこと言ったから……」  自分こそ悪かったと言いながらモジモジと視線を泳がせて頬を染めるツラを見た瞬間、心がギュッと摘まれるように熱くなった。 「……えっと、その……つか、(ひょう)……は? お前、あいつを追っ掛けて行ったんだべ?」 「ああ。(ひょう)は無事だ。ちゃんと保護したから」 「保護って……やっぱ何かあったの?」 「いや――」  ヤツがいかがわしい目に遭っていたことは伏せたものの、父親の経営する会社がらみで(ひょう)が少々巻き込まれていたとだけ話すことにした。おそらく(ひょう)紫月(しづき)にも本当のことを話していないだろうからだ。  その後、(ひょう)がしばらく香港の親父さんに会いに行くことや休学のことなども打ち明けた。紫月(しづき)は驚いていたが、同時にやっぱりそんなことがあったのかと言って軽い溜め息を漏らしてみせた。 「そっか……。やっぱ家のことでいろいろあったんだな、あいつ」 「――そんな感じを受けたのか?」 「ん、直接聞いたわけじゃねえから詳しいことは知らなかったけどさ。あいつ、元々はもっと明るいっつーか、可愛らしい性質っつーの? よく笑うし、いつも他人(ひと)のこと気に掛けてくれてさ。誰にでもやさしいヤツなんだ。けど、三年になって少ししてからだったな。雰囲気変わっちゃったっつーか、あんまし喋んなくなって、何事にも無関心っていう感じで滅多に笑わなくなっちまったんだ。親父さんは香港の支社に行ったっきりで殆ど家に帰って来ないとかで、そーゆうのが原因なんかなって思ってた」  本人が特に理由も話さないので、言いたくないことなんだろうと思っていたと紫月(しづき)は言った。 「悩みあったなら言ってくれればいいのにさって思うけど、まあ……だからって俺が何してやれるわけでもねえから仕方ねえっちゃそうだけど」  だがとにかく理由が分かって紫月(しづき)はホッとしたようだった。 「紫月(しづき)――お前ン家には連絡したんだったな?」 「うん、ダチん家に泊まるって言っといた」 「そうか――。だったら風呂入れるから入って来い。待たせちまって悪かったな」 「あ……うん。けどお前先入ったら? バイクで帰って来たんだべ? 外寒かったんじゃね?」  確かに寒かったが、こんなふうに気遣ってくれる言葉がひどく心に染みて嬉しかった。

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