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「……紫月 」
「……ん、そっか。そっか、そんなことあったんだ」
俺の身体を抱き締めながらそう言う声が涙に滲んでいる気がしていた。まるで辛かったなと言うように華奢な腕が目一杯やさしく俺を抱き締める。
紫月 はそれ以上特には言葉にしなかったが、ずっと俺を胸に抱えたまま抱き締め続けてくれた。
「遼 ……遼二 。俺、さっきも言ったけどおめえのことが好きだ。俺、チャランポランに見えっかも知んねえし、好きとか言っても軽いノリか冗談かってなふうに思えっかもだけど……これはマジ。だから……おめえのことなら何でも知りてえ……」
話してくれてありがとう――そう言っているようだった。
「遼 ……俺、俺さ。俺なんか……おめえの育った裏の世界ってのについて知識も何もねえし、何の役にも立たねえって分かってけど。でも俺、これからもおめえの側にいてえ。ダチとして……でいい。こやって、たまには遊びに来たり泊まりに来たりしてえ。俺ン家 に来てくれてもいい。ガッコだけじゃなくて、こやってたまには……」
ところどころ言葉を詰まらせながら、それでも一生懸命に思っていることを言葉に出して伝えてくれる――そんなヤツが愛しくて愛しくて堪らない気持ちだった。
「紫月 ――ありがとうな。こんな俺に――そんなふうに言ってもらえて、本当にうれしい……」
「遼 ……」
「いいな、それ」
「……え?」
「遼 ――って呼び方。そんなふうに呼ばれるのは初めてだ。たいがいは遼二 か、源 さんだって遼 ちゃんだし」
「あ……! そっか。そういや冰 も、クラスのヤツらも皆んな遼二 って呼ぶもんな?」
「お前だけの特別な呼び方――って思えて何だかうれしいな」
真っ向素直にそう言えば、紫月 もまた、嬉しそうに俺を見上げては頬を染めた。
その染まった頬に唇を押し当てて軽く触れるだけのキスをした。
「俺も――好きだ」
「へ……?」
「お前のことが好きだ。さっき帰って来た時、この部屋の灯りがついてるのを見た時、すげえうれしかった。お前が待っていてくれる――そう思ったら心があたたかくなった……んだ」
「遼 ……」
「好きに――なってもいいか? こんな俺が……誰かを想う資格があるのかって思うが」
「遼 ……! 資格なんて……」
そんなのあるに決まってる! ヤツの目がそう訴えてくれていた。
「結局俺は……きっとこれからも裏の世界を捨て切れねえかも知れない。育ったのがどっぷりその中だからってのももちろんだが、堅気になろうと望んでも――本能では裏の世界のことが捨て切れずにいる。さっきな、冰 を助けに来たヤツらと会って気がついたんだ。ああ、俺はやはり親父から受け継いだこの血を手放したくはねえんだって。親父のこと、麗 さんのこと、俺たち家族をぶち壊したあの二人を恨んでいるつもりでも……心のどこかでは求めているんだってことに気がついたんだ」
「遼 ――」
「できることならもう一度――親父に会いたい。叶わねえ夢だと分かっちゃいるが……親父が生きててくれたら、今度こそ洗いざらいいろんな気持ちをぶつけてみたい。恨み言も……寂しくてすがりたい気持ちも……みっともねえと思えるような弱みでも――どんなことも包み隠さずぶちまけてみたい。そう思えるようになったのはお前のお陰だ。お前が――人を愛する気持ちってのはどんなもんかっていうことを教えてくれたんだ。親父に対する思いも、麗 さんに対する思いも――全部気付かせてくれたのはお前だ」
「遼 ……」
「こんな……心に闇を抱えたような男がお前のような――身も心も真っさらで綺麗なヤツを好きになる資格があるんだろうかって思う。だがもう……」
この想いはとめられない――!
ふと、空気が動いたと思った瞬間に紫月 の唇が俺の唇に重ねられた。
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