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螺旋階段は同じ所を通らない(13)

 綿のように柔らかく軽い風に頬を撫でられて夜空を見上げると、名前も知らない星たちが細やかに煌めいている。歩きながら考えるのは、もちろん宮下のことだったが、悲壮感に満ちるかと思っていた胸の内は不思議とすっきりしていた。  もし宮下と関わりを断つことになったとしても、彼からもらった穏やかな気持ちも、楽しい記憶も、自省の念も消えはしない。人と付き合う上での失敗を少しでも前向きに捉えることが出来たのは、彼のお陰だ。  せめて、彼に想いを伝えるとき、少しでも心を傷つけないようにしたい。宮下にとって、同性から想いを寄せられたという経験は恐ろしいものになってしまうかもしれないし、二人で過ごした時間を忘れたい、無かったことにしたいと思われてもおかしくないからだ。仮に彼の心を傷つけてしまったとしても、それで終わりにしたくない。その傷を癒してあげたい。宮下がしてくれたように、言葉を重ねて寄り添いたい。ただ、それを彼が望まないなら、潔く身を引くしかない。  そういえば、誰かに好きだと告白するのは初めてだ。  地下鉄に揺られながら真壁が考えていたのは、大学時代の恋人である牛田義光のことだった。恐怖の象徴だった彼のことを思い出しても動揺しなくなった自分に安堵する。全てが過ぎ去った時間の中に葬り去られたわけではないし、起きたことは変えられない。それでも、忌まわしい出来事に対する捉え方や感情が、少しずつ、良い方へ動き出しているのを真壁は感じた。  牛田といつ恋人となったのか、真壁ははっきりと答えることができない。彼と同居することになった大学三年生以降のことであるのは確かなのだが。何せ、二人の間にお付き合いを始めるための告白という儀式は存在しなかったのだ。お互い雰囲気に流されて、恋人がするようなことをなし崩し的に実行していった。好意を示す言葉をかけ合うようになったのも、「そういうこと」をするようになってから半年位経った後のことだった。  今振り返ってみると、お互いに怖かったのだと思う。自分が相手に恋愛感情を抱いていると自覚することも、自分達の関係性に名前を付けることも。既成事実を作っておいてから――相手の気持ちも自分と同じだと確認してから、「恋人」という枠組みの中にお互いを当てはめていったのだ。  地下鉄を降りて、地上へ繋がる階段を上る。スマートフォンを確認すると、宮下から、家の場所を示すメッセージが送られていた。地図アプリに宮下の住所を目的地として設定して、位置情報をオンにする。  家に近づく度に、心臓が煩くなっていく。今更、踏ん切りがつかなくなっている。  宮下に会いたい。この気持ちを伝えたい。宮下に会いたくない。告白して、断られて、拒絶されたくない。  宮下との距離が近づくにつれ、悪い想像が脳内を占める。さっきは寄り添いたいとか思っていたくせに、自分が傷つくことへの恐れが捨てきれない。  もし、軽蔑されたらどうする。告白して断られるだけなら良い。揶揄されて、周りに言いふらされでもしたら……。  考え事は歩きながらした方が良い、という訳でもなさそうだ。余計な記憶が呼び起こされるのを止めることができない。宮下の家でDVDを見たあの日は調子が良かったのに。

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