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今日と同じ明日は訪れない(6)◎
「は……ふ、う……っ」
「大丈夫? ちょっと休憩しよっか」
「あ……ごめ、ん」
宮下の太腿に体重を預けて、真壁は大きく息を吐いた。どうにか宮下の一部を体内に収めたものの、入れただけで事が終わるなら苦労しない。この体勢でいることが一番大事なことだと宮下は言っていたけれど、体を交わらせる目的はいつだって、もっと先のところにあると真壁は考えていた。真壁はその目的を達成するために上下運動を繰り返して足掻いていたのだが、体全体を使っての力動は明らかに慣れていない人間のもので、動いている当の本人である真壁の体力を徒に消耗させるだけだった。疲労と快感の釣り合いが取れていない。
それでも、真壁の内部に陣取る質量が増すのを感じ取れたことは救いだった。少なくとも宮下は、真壁の中で感じてくれているということだから。とは言え、達するには物足りないような刺激しか与えられなかったという証拠でもある。それなのに宮下は特に不満を言うこともない。
「俊明さん、頑張ってくれてありがとう。すごく嬉しかったです」
労いの言葉と共に、宮下の腕が真壁の背を引き寄せる。薄い腹筋に力が入って浮き上がった。彼が自分のことを降ろすつもりなのだと分かって、真壁は足に力を入れて宮下の腹を強く挟んだ。
「やだ、このままやる」
「え、無理しないでいいよ」
この体勢が好きとわざわざ言うくらいなのだから、彼はこの体位に関する《《良い》》思い出があるのだろうと真壁は勘ぐっていた。前に付き合っていた人がとても上手かったとか、寝込みを襲われて盛り上がった経験があるとか。ともかく、真壁の関係しない、別の誰かとの思い出であることは確かだ。独りでに膨らむ妄想が不快な気分を催した。
上手く動けない自分の不甲斐なさも相まって、知りもしないはずの宮下の過去の恋人について頭が埋め尽くされた。ここでやめたら負けた気がする。
「どうやって動いてほしいとか、ある?」
「んー……上下じゃなくて前後に動くとか、ゆっくり動かしてみるとか?」
要求というより提案の形をしている宮下の返事に従って、擦りつけるようにゆっくりと腰だけ動かした。さっきよりも、柔らかい所を突く感触が分かりやすい。
「俺、こうやって、下から眺めるのが好きなんです。男の人と、セックスしてるんだなって実感できるので」
「俺以外の、人でも?」
「そんなこと気にしてたんですか?」
「ごめん、鬱陶しくて。忘れて」
「ううん。今の俊明さん、すごく可愛かった。他の人のとこなんて行く気ないから、安心してよ」
宮下の腹に置いていた手が骨張った指に絡め取られて、重心が不安定になる。それでも腰は快感を求めて、くるくると円を描くように勝手に動いた。上下に動いたときとは別のしんどさが腹回りに襲い掛かるが、そんなの気にならないくらい痺れが広がっている。
「その顔、他の人には、見せちゃダメだよ」
揺れる声は、快感に耐えているようにも弱さを見せているようにも聞こえる。絡めた指をぎゅっと握って、大きくこくりと頷いた。
「今日もこのまま泊まろうかなあ。明日、俊明さんが出勤するのに合わせて帰ります」
事が済んで満足そうに寝転んでいた宮下は、たった今思いついたと言わんばかりの表情で、柔らかめの髪に包まれた真壁の頭を撫でた。真壁の反応を窺う流し目には、先ほどの行為の残り香が漂っている。
「そっか、明日って日曜日だもんな。まだ一緒にいられるなら嬉しいな」
「そうでしょ? それと、これからは……月一回とかになるかもしれないけど、平日に休み取るつもり。俊明さんと会える時間を増やしたいなあって思ってるんです」
「どうしたの、いきなり」
「俊明さんだけが休みのすり合わせするのはおかしいでしょ。二人で共有する時間のことなんだから、俺だって努力しないと。俺、務めてそろそろ三年目になるし、有給休暇もある程度自由に使わせてもらえるようになると思います。実際にお伺いを立ててみないと分からないけど」
宮下も今まで平日に休暇を取ったことはあるものの、日付の指定は許されなかったようだ。恐らく強硬に主張すれば可能だったかもしれないが、仕事場での立ち位置はかなり不安定なものになっていただろう。下っ端の時期に実行するのは相当勇気が要る。
「悠人くんがそう言うなら、俺ももう少し考えてみようかな」
何を? と言いたげにぽやっとした眼差しを向ける宮下の瞳は、純粋な子どものようで可愛らしい。自然と笑いかけたくなるほどに。
自分を組み敷く側に回る彼を可愛いと思うことについての違和感は、真壁の中からとうの昔に消え去っていた。たとえ彼が自分より背が高くて、自分を貫くとき、本能だだ漏れの男の顔をしていたとしても。
「例えば、金曜日と土曜日とか、日曜日と月曜日とかさ。なるべく土日に寄せてだったら連休取れるかも」
「それなら俺も休み合わせます。……まだ何もしてないのに楽しみになってきた」
にやけた顔が近づいて、真壁の唇が塞がれた。角度と場所を変えて何回も繰り返されるそれによって、宮下に甘えられていることを実感する。
今までは、思わしくない状況をなんとかするためには自分が動かなくてはいけないと思っていた。けれど、二人で過ごす時間のために一緒に努力するなんて、心地良くて甘美な響きじゃないか。宮下の口からそんな素敵な話が聞けて良かったと真壁は安心した。
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