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第7話 死神の輝伊その二
輝伊がそう言うと、紫輝は、フフッと笑みを漏らし「出来るだけ、ね。輝伊らしい。ターゲットの人生に出来るだけ関わってみたいという輝伊の願を、私は今まで許してきましたが、最近の輝伊はターゲットに干渉し過ぎる。非常に心配です。私の気持ち、分かりますね、輝伊」
「はい、マスター。すみません」
輝伊が眉を下げる。
「そう思ってくれているなら、輝伊、次の仕事は速やかに行ってください」
そう言う紫輝の声は冷たい。
輝伊は切なげな顔をすると、「はい、分かりました」と目を伏せて言った。
そんな輝伊の頭を紫輝は撫でる。
「私の可愛い輝伊、期待していますよ。この前の少女、彼女は危ないところでした。あなたが、あまりにも彼女の人生を見つめる時間が長かったために、危うく自分で命を絶ってしまうところでしたから」
紫輝にそう言われて、輝伊の顔に影が差す。
あの砂浜の少女。
彼女は自殺しようと海に入った。
死神には、ターゲットの寿命が見える。
死神のターゲットは寿命の近い人間だった。
死神は、ターゲットの寿命が来るまでに命を狩らねばならない。
そうしなければ、大変な事になるのだ。
「もう、危険な事はしませんから」
輝伊は声を詰まらせて言う。
「約束ですよ、輝伊」
「ただいま」
藤太の声が聞こえた。
藤太が買い物から帰って来たのだ。
紫輝の姿がスッと消える。
輝伊はため息一つすると、部屋のドアを開け、階段を駆け降りた。
「輝伊、ただいま」
藤太は両手にスーパーのビニール袋を提げていた。
「お帰りなさい。早かったね。荷物運ぶの、手伝うよ」
「サンキュー。じゃあ、これ頼む」
輝伊は少ない方の袋を渡される。
藤太は靴を脱ぎ、家の中に上がると、真っすぐキッチンへ向かう。
輝伊もそれに続いた。
キッチンに着くと、ビニール袋の中身を藤太が直ぐに冷蔵庫に詰めていった。
輝伊は黙ってそれを見ていた。
「さてと、これでお終い。晩飯まで、まだ時間あるし、えーっと……」
冷蔵庫を閉めて、藤太は輝伊の顔を困ったように見る。
(ああ、気まずいのかな)
輝伊は思った。
出会ったばかりの二人。
まだ、相手がどういう人間なのか分からない(そもそも輝伊は人間ではない)。
二人が打ち解け合うには、まだ時間は十分では無かった。
(何か話を……)
輝伊がそう考えた時。
「えっと、疲れて無かったら、何か話でもしないか?」
藤太が照れくさそうに言った。
輝伊は目を瞬かせ、「うん」と言う。
藤太はホッとした表情を見せる。
「じゃあ、コーヒーでも飲みながら、あっ、コーヒー大丈夫?」
「うん、大好きだよ」
「じゃあ、インスタントだけど、コーヒー入れるな」
「うん」
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