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死神のアンバランス 第6話 死神の輝伊その一 | 鬼兩の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
死神のアンバランス
第6話 死神の輝伊その一
作者:
鬼兩
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第6話 死神の輝伊その一
四谷輝伊
(
よつやきい
)
はベランダから部屋の中へ戻ると、改めて自分の部屋の中を見回した。 ここが今日からしばらくの間、自分の部屋になるのかと輝伊はぼんやりと思った。 自分の部屋を持つ事は輝伊には久しぶりの事だった。 輝伊は、何ともなしに、側にあった机に視線を落とし、それをそっと指で撫でてみた。 机はツルリとしていて、ひんやりと冷たかった。 こんな体になっても感覚を感じている自分を、輝伊は何だかおかしく感じる。 輝伊は自分の細い指を眺める。 人の形をしている自分の指。 しかし、輝伊は人ではない。 人であった時もあったけれど、それは昔の話だ。 輝伊は今、死神として時を過ごしている。 人の命を摘み取る死神。 輝伊は、それを仕事として与えられているのだ。 部屋のカーテンが風も無いのにフワリと揺れる。 部屋の空気が今までの物と変わる。 冷たい、張りつめた様な空気。 「輝伊」 名前を呼ばれて輝伊が顔を上げると、漆黒のマントに身を包んだ長身の男が、部屋のドアの前にゆらりと立っていた。 「マスター」 輝伊がそう呼ぶ男の名前は、
紫輝
(
しき
)
と言った。 輝伊がそう呼ぶように、紫輝は輝伊の主人であり、ガイドであった。 紫輝はいつも、輝伊にまるで陰の様に寄り添っている。 紫輝が輝伊に近付き、輝伊の頬に手を伸ばす。 輝伊は瞬きもせずに顎を上げて紫輝の顔を見る。 紫輝の顔は目元から下が厚いフェイスベールで隠れていて見えない。 その黒いフェイスベールは口元の当たりに赤い唇の絵が描かれている。 「私の可愛い輝伊。新しい住み家は気に入りましたか?」 紫輝は優しくそう言うと、輝伊の頬を撫でた。 輝伊は目を細めると「分かりません」と答える。 「ふふっ、そうですか。これからここを基盤として活動するんです。居心地は良くしておかなければなりませんよ」 「はい」 「ただし……」 紫輝が輝伊の頬から手を離し、人差し指を自分の口元に当てる。 輝伊はその様子をジッと見つめた。 「この家の人間とのなれ合いはほどほどに」 そっと紫輝が言う。 「分かっています。マスターには僕の我がままを聞いてもらっていつも感謝しています。だから、出来るだけマスターの言う通りにします」
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