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第5話 居候その四
言われて輝伊はドアを開ける。
輝伊は部屋の中を目を見開いて見る。
「良い部屋だね」
輝伊がニッコリと笑って言う。
部屋は六畳ほどの広さで、木製のベッドと机が置いてあって、小さいが、クローゼットがある。
それと、ローテーブル。
ローテーブルの側にはブルーのクッションが二つ置かれていた。
大き目のカーテンの色はブルー。
部屋はベランダに面している為に大きなガラスの吐き出し窓がある。
この吐き出し窓からベランダに出る事も出来る。
吐き出し窓から明るい日の光が部屋に入って来ていて輝伊は目を瞑った。
「気に入ってくれたなら良いけど」
藤太はこの部屋の掃除を一番に頑張った。
カーテンもクッションもシーツも布団も枕も新しくして、それを一人でセッティングするのは随分と苦労したのだ。
「凄く気に入ったよ」
輝伊がそう言うと、藤太は鼻の下を指でこすって満足そうにはにかんだ。
「部屋は自由に使って良いから。……さてと、これで我が家の案内はお終いだ。何か分からない事とかがあったら聞いてくれて良いから」
「うん、ありがとう。……今は特に無いかな」
「そうか、じゃあ、お前、荷物運んじまえば? 玄関に置きっぱなしだろ。運ぶの手伝ってやるから」
輝伊の持ってきたスーツケースと大き目のスポーツバッグは玄関に置いてあった。
スーツケースもスポーツバッグも重たいので取り敢えず玄関に置いておくことにしたのだ。
「うん、そうする。でも、一人で出来るから」
「遠慮すんな。ほら、行くぞ」
藤太は先に部屋を出て階段を下りる。
階段の直ぐ下が玄関だ。
藤太は迷わずスーツケースを持つと玄関のたたきからスーツケースを家の中に運び入れた。
後から来た輝伊が、「そっち、重いから、僕が運ぶから」と言ったが、藤太はスーツケースを持ち上げて輝伊の横をすり抜けて階段を上がってしまった。
「大丈夫?」
輝伊が藤太に声を掛ける。
「大丈夫、こんなの軽いって」
そう言うと、藤太は勢いよく階段を上る。
部屋までスーツケースを運び終える頃には、藤太は息を切らしていた。
(うっ、ちと張り切りすぎた)
ハァハと息を漏らしている藤太の後ろに、スポーツバッグを肩に掛けた輝伊が佇んでいる。
藤太が輝伊の方を振り返ると、心配そうな顔をして藤太を見ている輝伊の顔があった。
「そんな顔すんなよ、大丈夫だから」
藤太が言うと、「でも、僕の為に無理させたから」と輝伊は切なそうに言う。
「無理なんてして無いから。それより、荷物、これから片づけるんだろ?」
「うん」
「じゃあ、その間に俺は夕飯の買い出し行って来るから。言い忘れたけど、親父が単身赴任でさ、しばらく俺とお前の二人暮らしだ。悪いけど、俺のまずい飯食ってもらうぜ」
「あ、単身赴任。そうなんだ。料理、藤太が作るんだ」
「まぁ、見よう見まねだけどな」
「買物、僕も一緒に行くよ」
「ん、良いって。お前は荷物片付けろよ」
「……分かった」
「あっ、晩飯、何かリクエストある?」
訊かれて輝伊は少し考えてから「うーん、特に無い。何でも良いよ」と答えた。
「なら、カレーだな」
「うん、カレーで良いよ」
「ん、じゃあ、買い物行って来る。後でな」
「うん、後で」
藤太は輝伊の部屋から出ると、自分の部屋に入り、財布を取ってそれを片手に玄関を出た。
藤太は気付いていないが、二階のベランダから輝伊が藤太の姿を見つめていた。
その目は鋭い光を帯びている。
輝伊はしばらく藤太の姿を眺めていたが、やがて家の中へと消えた。
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