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第4話 居候その三

 目の前で麦茶を、がぶ飲みしている藤太を見ながら「随分と喉が渇いてるんだ?」と首をかしげて輝伊が訊く。 「あっ、ああ、何だか無性に喉が渇いて。あ、お前も麦茶飲めよ。お代わりあるし」 「うん、頂くよ」  そう言って輝伊が麦茶に口を付ける。 「冷たくて美味しい」 「そうか、良かった。あっ、あー、それより、お前、明日から学校だよな。親が単身赴任で転校だなんて、お前も大変だな」  さっきまでの自分の変化を誤魔化す様に藤太は積極的に喋った。 「うん、転校はちょっと心配だったんだ。でも、藤太君と同じ学校だから少し安心」  輝伊は明日から藤太と同じ高校へ通う。  藤太も輝伊も二年生だ。 「同じクラスになれたら良いな」  藤太がそう言うと、輝伊は花が咲いた様な笑顔を見せて「うん、藤太君と同じクラスが良い」と答えた。  輝伊の笑顔に藤太はドギマギする。 「……君は止めろよ。藤太で良いよ」 「分かった。……藤太」  名前を呼ばれると藤太は何だかくすぐったい。  まだ体がほてっているからかも知れなかった。 「ねぇ、学校ってどんな感じ?」  少し上目使いにして輝伊が藤太に訊ねる。  藤太は少し考える。 「そ、そうだな。普通の学校だよ。良くも悪くもない様なところが取り得の、そんなとこ」 「ふーん、そう」 「あっ、ガッカリさせた? 悪い」 「ううん、そんな事無いよ。普通が一番だ」 「そりゃ、そうだ」 「……ねぇ、何だか落ち着きが無いみたいだけど大丈夫? もしかして、緊張してる?」  ズバリ言われて藤太は椅子から腰を浮かせた。 「いや、そんな事無いって! 気のせいだよ! 気のせい!」  そう言いながら、藤太は気持ちを落ち着かせるため、お菓子を口いっぱいに入れた。 「そう、なら良いけど」  輝伊はお菓子に手を伸ばしながらそう言った。  どうも輝伊を相手にしていると調子が狂う。  果たして、この居候と上手くやって行けるのだろうかと、藤太の頭に不安がよぎった。  輝伊がコップの麦茶を飲み終えた頃、輝伊に家の中を案内しようという事になった。  と、言っても。リビングもダイニングキッチンも見たし、残すところは後僅かと言うところだった。  二階建ての三上家は、一階にリビング、ダイニングキッチン、バスルームと脱衣場、トイレと四畳半の和室がある。  輝伊は藤太の後に続いて、脱衣場と、それに続くバスルームを見て、トイレの場所を覚えて、四畳半の和室を見た。  後は二階だ。  二階は、藤太の部屋と一の部屋、それと、輝伊が使う部屋とトイレがある。 藤太は自分の部屋と一の部屋の場所だけを輝伊に教え、中へは入れなかった。 その事に対して、輝伊は別に何も言わなかった。  そして、残る最後の部屋へ、藤太は輝伊を案内する。 「ここがお前の部屋だよ。ドア、自分で開けてみな」

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