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第3話 居候その二
「あー、取り敢えず、そこのソファーにでも座ってて。俺、お茶でも入れて来るわ」
そう言って藤太が一人でキッチンへ向かおうとすると、輝伊が「僕も手伝うよ」と言って藤太の後ろに付いた。
「ああ、別に手伝わなくても良いよ。お茶って言っても麦茶だし、ここで待っててくれたら直ぐだから」
「ううん、キッチンも見たいし、一緒に行く」
「……ならご自由に」
輝伊を後ろに付けて、藤太はキッチンへ向かう。
キッチンはリビングの直ぐ隣でダイニングキッチンになっている。
「こっちも綺麗だね」
感嘆の声を漏らす輝伊。
「そりゃ、どーも」
藤太は心の中で、一生懸命掃除しましたから、と呟いた。
藤太はキッチンに立つと冷蔵庫を開けて冷えた麦茶を取り出す。
そして、戸棚を開けてコップを取り出そうとして、藤太の手は止まった。
(そういや、コイツの食器ってどうするんだ? 親父のヤツ、何も決めて無かったよな。取り敢えずお客様用のヤツか?)
悩む藤太に、隣にいた輝伊が「どうしたの?」と声を掛ける。
「いや、別に」
藤太は、自分のコップと客用のコツプを戸棚から取り出して麦茶を注いだ。
それを丸い盆に載せると少し考えて「リビングに行くのが面倒だ。ここで飲んじまおう」
と、ダイニングのテーブルを顎で示した。
テーブルの上には丁度お菓子の載った器が置いてある。
輝伊はそれを見て頷いた。
二人は四人掛けのテーブルに向かい合って座った。
藤太は、改めて目の前の輝伊の顔を見てみる。
薄茶色のサラサラのショートボブヘアー。
整った目鼻立ちに加え、幼さを残したあどけない様な顔をしているのだけど、輝伊の目は鷹の様に時々鋭く周囲を見回す。
輝伊の目を見ていると、藤太は何かに飲み込まれる様な感覚に陥った。
その感覚に引き込まれる様に藤太の心臓が鼓動する。
(何だ、これ)
今度は、全身が甘く痺れる様な感覚が訪れて藤太は戸惑う。
藤太の体が熱くなる。
(どうしたんだ、俺。コイツの目を見てると、なんか変だ)
「僕の顔に何か?」
輝伊に訊かれて藤太はハッとした。
藤太の首筋には汗が伝っている。
「な、何も……」
乱れた呼吸を整えながら藤太は言う。
「そう。なら、良かった」
そう言う輝伊の目を、恐る恐る見てみる藤太。
(今度は何とも無い。全く、何だったんだよ?)
藤太は麦茶を一気に煽った。
冷たい麦茶が藤太の喉を伝う。
熱くなった体の熱をもっと下げたくて藤太は輝伊の目も構わずに冷蔵庫へ走り、麦茶の入ったボトルを取って、テーブルまで戻ってコップに勢いよく注ぐ。
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