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第2話 居候その一

 六月。  今日は日曜日。  三上藤太(みかみとうた)は、そわそわしながら家の掃除をしていた。  昨日から始めた掃除はまだ終わらず、結局今日ギリギリまで掃除をする羽目になってしまった。  今、掃除をしているのは脱衣場の洗面台である。  ゴシゴシとスポンジで洗面台を磨く。  ふと、藤太は洗面台の鏡で自分の顔を見る。  ゆるい天然パーマの掛かった黒髪を刈り上げたその髪に寝癖が付いている。  おまけに服装は寝て起きたままの、皺の付いた、ぶかぶかのTシャツに、やつれた黒の膝までの短パン姿だった。  掃除を優先させて、自分の身なりの事を疎かにしてしまったのだ。  藤太は手で髪の毛を整えてみる。  しかし、寝癖は酷く、跳ね上がった髪は落ち着いてはくれなかった。 「チッ」  舌打ちすると、藤太は置いてあった寝癖直しのスプレーを頭に振りかけた。  だが、頑固な寝癖は少し大人しくなっただけだった。  藤太が鏡の前で苦い顔をしていると、ピンポーン! とインターフォンの鳴る音が響いた。 「チッ、もう来ちまったか!」  藤太は急いで玄関へ向かうと、玄関の扉を開けた。  藤太の目の前に、薄茶色のショートボブの整った顔がぼうっと藤太を見ているのが映る。 「あっ、えーっと……」  藤太が頭を掻きながら目の前の彼氏を上から下まで眺めていると、彼氏は深くお辞儀をした。 「四谷輝伊(よつやきい)です。今日からお世話になります」  彼氏、四谷輝伊は滑らかにそう自己紹介をした。 「えっと、三上藤太。えーっと、よろしく、輝伊」  照れくさそうに藤太が言うと、輝伊は「よろしく」とわずかに笑った。 「あっ、上がったら」  藤太に言われて、輝伊は「うん」と頷き三上家の中へと入った。  四谷輝伊は今日から三上家に居候するのだ。  事の発端は一週間前。  藤太の父親、(はじめ)が夕食中にいきなり、「来週の日曜日から、家に男の子が居候するから」と言い出した事から始まる。  なんでも、相手は一の友達の子供で、友達が海外に夫婦で単身赴任する事になった為、一人日本に残る息子が心配だからと、友達の一に息子の居候をお願いしたのだ。  一はそれに快く応じた。 「結構前に決まってた事なんだけど言いそびれちゃって」  悪びれなくそう言う父親に、藤太は、やれやれ、とため息を付いた。  三上家は藤太と一の二人暮らしだ。  藤太の母親は二年前に交通事故で亡くなってしまった。  二人には広すぎる一軒家。  一人くらい増えても構わないか、と藤太は思った。 「別に今更反対しないけどさ、余ってる部屋もあるし。けど、とりあえず、この散らかった家はどうすんの?」  藤太は辺りを見回す。  ゴミ屋敷、とまではいかないが、ゴミ袋に囲まれた有様はいただけなかった。 「ごめん、藤太、俺、明日から単身赴任なんだ。小遣いは弾むから片付けよろしく」 「うっ」  こうして、今日まで、藤太の大掃除の日々が続いたのだ。    リビングに通されると、輝伊は物珍しそうに辺りを見回した。 「凄く綺麗にしているんだね」  言われて、藤太は、そうだろうとも、と思う。

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