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そっと、口吻けを。 3
そんなことを考えながら、ようやっと出汁巻卵を一口食べた瞬間、リビングのドアを勢いよく開けられた。
「パパーーーーっっっ!!」
娘の美波が飛び込んでくる。ランドセルを背負って、トートバックを持って、クリーム色のスプリングコートを着て、真っ直ぐに走ってきて、勢いよく抱きつかれた。
いきなりの娘の登場にさすがに目が覚める。
「美波・・・どうした?」
「パパ!会いたかったぁ!」
「学校は?」
「パパったら、今日から春休みよ」
「そうなのか・・・」
オレは食事を諦めて、首筋にしがみついている娘を抱きしめる。
オレと元モデルの元嫁の血を引いているので、整った顔立ちをしている。10歳という年齢よりも、若干年上に見られてしまう。
オレは、美波の滑らかな額にキスをすると、頭を際限なく撫ぜる。
その時、リビングの片隅に、珀英がいたたまれなさそうな表情(かお)で立っているのか見えた。
そうか・・・珀英と美波って、初対面なんじゃないのか?珀英はオレから娘がいるって聞いてるけど、美波には珀英のこと言ってないし。きっと玄関で揉めてたのはそこだな。
そこまで思考が追いついたオレは、抱きしめていた腕を緩めて、美波の顔を覗き込む。
「美波ごめん、珀英とは初めましてだよね?」
「・・・だれ?」
「あのお兄さんなんだけど」
オレは所在なさげに立っている珀英を指差す。美波はものすごく不機嫌顔で、珀英をちらっと見やっただけだった。
「えっと・・・パパと同じようにバンド活動してて、歌うたってる人で・・・えっと・・・」
「・・・」
珀英のことを紹介するのが、簡単だと思っていたけど、無理だった。恋人関係をなかったことにして、説明がつかなかった。
「えっ・・・っと・・・とも・・・友達?」
自分で言ってて疑問形になってしまったので、珀英と美波が不審そうな表情でオレを見る。
オレは慌てて、
「ああ・・・友達だけど、すんごく仲の良い、友達!」
「・・・親友?・・・てきな?」
美波が可愛い顔を思いっきり歪めて、理解不能そうな、疑問形できいてくる。
「んー・・・そんな感じ・・・」
「ふーん・・・」
オレも珀英も美波も、誰も納得していない表情で、明確な回答を避けた感じで納めようとしていた。
ぎくしゃくとした緊迫した空気感の中で、珀英が恐る恐る口を開いた。
「緋音さん・・・そろそろ出ないと」
「あ・・・ああ・・・」
「どこ行くの?!」
美波がびっくりして、オレをどこにも行かせまいと強く抱きついてくる。
オレは美波の頭を撫ぜながら、
「ごめん、レコーディングなんだ。もうすぐで終わるから。今日は帰りなさい。また連絡するから」
オレは抵抗する美波を膝から下ろして、立ち上がる。
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