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そっと、口吻けを。 12

どうしようもなく、愛おしくなった。 珀英は腕を伸ばして、思わず美波を抱きしめていた。その小さな体を抱きしめて、温もりを感じて、匂いを感じて、鼓動を感じていた。 美波が、愛おしかった。 自分には子供はできない。そんなことはとっくの昔に覚悟している。普通に『結婚』して『家庭』を築くことはできない。 だから緋音の気持ちが嬉しいし、美波の優しさが痛かった。 美波は、珀英が泣き出した理由も、自分を抱きしめる理由も、なんとなくわかった。完全に理解したわけじゃないけど、言葉にはできないけど、なんとなくわかる。 自分があの夜、父親に泣いて訴えたことと、今珀英が泣いている理由は同じじゃないけど近い気がした。 美波は、大人しく珀英に抱きしめられながら、珀英の鼓動を聴きながら。 そっと・・・珀英の胸に額を擦(こす)りつける。それが、父親である緋音が珀英に甘えたい時にする仕草だと知らずに。 すりっ・・・と擦りつける。 「しょうがないなー・・・珀英も『家族』に入れてあげる」 「・・・っ」 「だから、泣かないでよ。ね」 さっきまでのつんけんした口調とは全く違う。 慈愛に満ちた口調で、美波は言った。 ああ・・・女性はすごいな。絶対に、勝てないな。 珀英は無言で頷(うなず)いて。美波をそっと離すと、大きく深呼吸を繰り返した。美波は背負っていた小さいリュックから、ポケットティッシュを出して珀英に差し出した。 珀英がティッシュで鼻をかんだりしていたら、電話を終えた緋音が駆け足で戻ってくるのが見えた。 美波はいち早く気がつくと、今の珀英とのやりとりなんかなかったかのように、元気よく緋音に手を振る。 「パパーー!遅ーーい!」 「ごめんごめん」 美波は無邪気に手を振って、緋音は人にぶつからないように走ってきて。美波のところまで来ると、自然と美波の頭を撫ぜていた。 変なところが似ている二人を、珀英は、さっきまでとは全然違う心境で見ていた。 憧れと羨望と嫉妬しかなかったのに、今は愛おしさが勝っていた。 二人を、守りたい、と素直に思えた。 * 珀英と美波が、何となく打ち解けたなーっと、見ていて思うことが増えた。 スカイツリーに遊びに行ってから、珀英が家に来ることを許してくれたし、珀英と一緒にご飯作ったりしている。 険悪でもなければ、めっちゃ仲良いわけでもない。 お互いに歩み寄り始めてて、友達になりたてのような、そんなよそよそしさと戸惑いと初々(ういうい)しい親密さを感じる。 スカイツリーで何かあったのか聞いても、美波も珀英も「何もない」としか言わないし。 オレとしては二人が仲良くなってくれるのは嬉しいけど、何か急にだから、ちょっと疎外(そがい)感を感じてしまう。

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