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そっと、口吻けを。 11
「パパは・・・珀英と『家族』になりたいって言ってた」
「え?」
言うつもりのなかったことを、美波は思わず言ってしまっていた。
顔は見えないのに、なのに、珀英が酷(ひど)く落ち込んでいるように、思ったから。
美波の予想外の言葉と、初めて名前を呼んでくれたのとで、珀英は美波を振り返った。
「本当に?」
「う・・・嘘なんかつかないわよ!あとはパパに聞けば!」
ツン、とそっぽを向く美波。なんだか父親と珀英の仲を取り持ってるような気がして、急にちょっとイラッとした。
珀英は緋音がそんな風に思ってくれていた事を知って、嬉しくて幸せで、泣きたくなる。というか涙が出てきた。
緋音が自分のことをそんな風に考えてくれているなんて、そんなことあるなんて思わなかった。
だって、緋音には、美波や元お嫁さんとか。そういう関係の人がいるから。自分はその中には含まれないと思っていた。そんな高望みはできないと、思っていた。
珀英は思いもしなかった話しに、どう対応したらいいのかわからないまま、溢(こぼ)れ落ちそうな涙をどうしたらいいのかわからず。
ずるずると、壁伝いにしゃがみ込んだ。
隣にいる美波とほぼほぼ、同じ高さまで体を小さくした。
泣いてるところなんか見られたくなくて。
珀英は、体育座りをしたまま、道行く人の視線を気にしたくないし、顔も見られたくないので、腕を組んでそこに顔を伏せた。
やっと涙を落とせる。
こんなところで大の大人が何やってんだか・・・。珀英は自分で自分が情けなくなっていた。
溜息をつきかけた時、不意に、頭を撫(な)ぜられた。恐る恐る撫ぜる、優しいその手つき。緋音の手と同じ温もりに、珀英はびっくりして顔を上げた。
予想通り、美波が少し気まづそうにして目の前に立っていた。
あまりマジマジと見れなかったので気づかなかったが、目元と口元が緋音に似ている。
ぱっちりと二重の大きい目と、薄めだけど紅い口唇。成長したら美人さんになるだろう。
そんな美波が父親そっくりな笑顔をしていた。呆(あき)れたように、ふんわりと優しく微笑んでいる。珀英を慰める時、なだめる時に緋音がよくする笑顔だった。
「・・・本当・・・パパといい珀英といい、男の人って泣き虫ね」
そんなことを言いながら頭を撫ぜる手が、緋音の手とそっくりで。憎まれ口を叩きながら、それでも優しいところもそっくりで。
珀英の大好きな緋音の血をひいているのだと、改めて認識して。
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