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*2章と3章の間あたりの小話です

【小話】 「ん……あっ」  控えめに漏れる吐息のような喘ぎ声。  焦点の定まらぬ瞳は深い艶を纏っており、薄く開かれた唇は、吸い過ぎたせいで常よりも赤くなっていた。 「ここ、いっぱいになって嬉しい?」  二本の性器を咥えこんでいる後孔の縁を、長い指先でなぞりながら、薫が耳朶を甘噛みする。同時に奈津が、下腹辺りへと手のひらで徐々に圧をかければ、「……うれしい」と、掠れた和真の声が室内に細く響いた。  今日、和真は奈津の命令で、騎乗位を強いられた。ベッドに横たわる奈津の性器へと口を使って奉仕したあと、自ら彼の上へと跨がり、後孔へそれを受け容れたのだ。  それから、必死に腰を前後へ揺らし、満足させようとしたけれど、穿たれることで中から生まれた鋭い愉悦に溺れてしまい、結局腰が立たなくなって奈津の上へと倒れ込んだ。 『しょうがないな』  刹那、背後から聞こえた、ため息混じりの薫の声に、折檻を恐れた和真は竦み上がった。けれど、いつもなら襲う筈の痛みは訪れず、代わりに腰を強く捕まれ、奈津の性器を受け入れたそこへと薫のものも挿入され―― 「完全に飛んでるな」  和真の目の前へ手のひらをかざし、ひらひらと振ってみせたあと、奈津が薫へと声をかける。 「ああ、気に入ったみたいだ」  萎えかけた性器を引き抜きながら、薫がそう答えると、喉を鳴らして笑った奈津が、和真の性器の先端を飾るルビーを軽く指で弾いた。 「あっ……うぅっ……ん」    細い身体が痙攣し、「ださせて」と、微かな懇願の声が聞こえる。 「どうする?」と、薫が問えば、「いいよ。初めて二本入れられたから、今日は特別だ」と答えた奈津が、ブジーを掴んでそれをゆっくりと引き抜きはじめた。  *** 「和真」  自分を呼ぶ声が聞こえ、和真は「……だれ?」と、返事をする。  瞳は開いているはずなのに、焦点はまったく定まらず、フワフワと身体が浮いているような感覚の中、うまく思考ができなかった。 「久しぶりに出せて、気持ち悦かった?」 「きもち……いい」  性器を緩く扱かれて、本能のままに腰を揺らす。それから、いつも教え込まれているとおり、「ありがとうございます」と、途切れ途切れに感謝の言葉を何度も紡いだ。 「意識飛んじゃってる。かわいい」  体中が鈍い痛みを覚えており、喉も酷く渇いている。それでも……久々の射精に伴う絶頂感で、和真の心は多幸感に満たされていた。 「口、あけて」  言われるがままに唇を開けば、そこへ何かを押し込まれる。そして、「食べていいよ」と命じる声に、素直に頷き咀嚼した。途端、瑞々しい甘さが和真の口腔内へと広がって―― 「おいしい?」  尋ねてくる誰かの声に、夢中で和真は頷いた。もっと欲しいと口を開けば、クスリと笑う声が聞こえたが、「いいよ」と優しげな声が響いて、もう一口与えられる。 「和真はこれが好き?」 「好き、もっと……」 「餌付けしてるみたい」  愉しそうに会話をしている二人の声は聞こえるが、内容までは分からなかった。 「泣いてる。そんなに美味しかった?」  目尻を指で拭われるけれど、質問の意味も分からない。 「和真は葡萄が好きなんだ」  問われて「好き」と返事をした。すると、褒めるみたいに頬を撫でられ、心の底から嬉しいと感じる。 「貰った時は果物なんかいらないって思ったけど、取引先もたまには役に立つ」 「そうだな。次は、意識がはっきりしてる時に食べさせよう」 「和真、まだ食べる?」  問われた和真は再び深く頷いた。  それから、最後の一粒が終わるまで、ただ無心に口を開き、何度も「もっと」と強請ったことを、(のち)の和真は覚えていない。

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