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「ただいま。もしかして、寝てる?」 「おかえり。泣いて震えてたから、とりあえず寝かせた」  奈津が部屋へと帰った時、ソファーに座る薫の肩に(もた)れて和真は眠っていた。テーブルの上に飲みかけのカップが置かれているから、きっと眠剤を仕込んだのだろう。 「まあ……こうなるとは思ってたけど」  そこでいったん黙った奈津は、薫と短いキスをしてから、眠る和真の隣へと座り、彼の着ているシャツのボタンを解いていく。 「仕事がしたいなんて無理。一生許したくない」 「俺もだ」  薫の返事に頷いた奈津は、露わになった胸の尖りに付けられたピアスに触れながら、「和真の気持は分かるけど、ホント無理」と付け加えた。 「だから、しょうがない」  喉で笑った薫の手が、和真の下着を下へとずらし、貞操帯に包まれている性器の奥へと滑りこんでいく。すると、眉間にしわを寄せた和真は小さく呻くが、起きる気配はまるで無かった。  和真の意志を尊重すると決めた以上、働きたいと望む彼を閉じこめるような真似もできず、心配だから練習しようとある条件を提示した。    それは、通勤時間帯に一人で電車へと乗り、買い物に行くというもので、以前は毎日通勤していた和真にとって、当たり前にできることの筈だった。 「まさか、痴漢にあうとはな」  白々しく響いた声に頷いてから、奈津は和真の胸の尖りをピアスごと緩く揉みはじめる。   「……うぅ……ん」  ほぼ同時に、薫の指が会陰部に開けたピアスを刺激したせいか? 青ざめていた和真の顔に赤みがさし、少ししてからあえかな吐息が聞こえてきた。 「大丈夫。ちゃんと記憶は消してきた」 「心配してない。奈津の仕事はいつも完璧だろ」  薫の返事に「まあな」と答え、奈津は苦笑いをする。  今回、インターネットの信用できる掲示板に募集をかけ、複数人に電車内での痴漢行為を依頼した。コートの上から触れる程度でいいと伝え、奈津本人は気づかれぬように見ていたが、和真の恐怖心を煽るのには十分なようだった。  ネットの書き込みはもちろんのこと、成功報酬を渡すと同時に依頼相手の記憶も消去してきたから、自分たちさえ話さなければ和真に知られる心配もない。酷いことだとは分かっているが、正しくあろうとは思わなかった。 「怯える和真もかわいかったけど……知ったら怒るかな」 「一生言わないつもりだろ。でも、怒った和真を(なだ)めるのも愉しそうだ」  微笑む薫と再びキスを交わしてから、僅かに開いた和真の唇へ触れるだけのキスをする。と、薄く瞼を開いた和真が「……奈津? おかえり」と言いながら、ふわりと綺麗に微笑んだ。 「和真、俺もいる」 「あ……薫? ……ん……んぅ」  珍しく少し()いたのだろう。  寝ぼけている和真の顎を上向かせ、やや乱暴にキスをしている薫の姿を瞳に映し、奈津の心にはどうしようもなく愛しいという感情がわきだしてくる。 「薫、和真、愛してる」  だから、何度紡いでも言いたりない。言葉だけでは言い表せない強い想いを声に乗せ、奈津は2人を抱きしめた。      この先、なにが起きても奈津と薫は互いと和真を手放さないだろう。そして、そのための手段は選ばない。和真が2人に『愛している』と言ったのだ。心変わりは許されない。  例え和真が『愛されたい』と望んだことを、後悔する日が来たとしても――。 end ありがとうございました! 次のページは以前ブログに上げた小話です。

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