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一位は見た

こんにちは。わたくし、鎧鏡家奥方様候補雨花様専属梓の丸使用人筆頭側仕え第一位……梓の一位でございます。 わたくしがお仕えしております奥方様候補の雨花様は、大層お可愛らしいお方でございます。 初めて雨花様とお会いした日に受けた、可愛らしいお方という印象は、お仕えして一年近く経つ今も、全く変わっておりません。 雨花様は、外見も大層可憐なかたでいらっしゃいますが、雨花様のお可愛らしさは、見た目よりも中身……内面からにじみ出ていらっしゃるもののように感じます。 わたくしが雨花様に初めてお目にかかったのは、雨花様が奥方様候補に選ばれた日でございました。 その日、わたくしが一位としての初仕事としてさせていただきましたのは、雨花様がご実家からお持ちになった手荷物を、改めさせていただくというものでした。 外部からこの曲輪内に持ち込まれた物は、細かい物も全て、調べなければならない決まりがございます。 それは奥方候補様や、鎧鏡一族の皆様とて、例外ではございません。 意図して危険物を持ち込むのを防ぐだけでなく、意図せず危険物を持ち込んでしまうのを防ぐという意味合いもございましたので、誰が持ち込んだ物であろうと、外部から持ち込まれた物については、全て調べることになっておりました。 受け取った雨花様の手荷物を拝見したところ、小さな手提げ鞄の中には、ケースに入れられたDVDと、梵天の付いた耳かき、そして『日本では自分でするのが普通です。それが無理なら若様にお願いしてみなさい』と、女性がしたためたのではないかと思われる、達筆な文字で書かれた書簡が入っておりました。 DVDを見ると、パッケージに『耳掻きの遣り方』と、これまた女性らしい達筆な文字が書かれています。 大変失礼なこととは存じましたが、それ見た瞬間、我慢出来ず吹き出しました。 推察するに、雨花様のご実家である柴牧家(しばまきや)様の奥方様が、このようにご準備なさって、雨花様にお持たせになられたのではないでしょうか。 雨花様にこれだけを持たせ、こちらに送り出してくださった柴牧家様の奥方様に、大変好感を持ったものです。 その後、雨花様のご嗜好などをお伺いするため、幾度か柴牧家様の奥方様……由加里様と、お電話にてお話をさせていただく機会がございました。 何の話からそうなったのかは記憶にございませんが、いつだったか、耳かきの話になりまして……。 小さいうちから諸外国にて育った雨花様は、いつも耳鼻科にて、耳掃除をしていただいていたのだというお話を伺いました。 由加里様より『いつまでたっても自分で耳掃除出来ない子では困るので、青葉には耳鼻科の受診を勧めないでください』と依頼されましたので、わたくしは黙っていることに致しました。   さて。そのようなことも忘れておりました先日のことでございます。 暖かな午後でございました。 お珍しく、昼過ぎから梓の丸にお渡りになられた若様から、お茶を持ってくるようにと、雨花様のお部屋の離れである和室から電話が入りました。 わたくしは急いでお茶を淹れ、和室に持って参りました。 「お茶をお持ち致しました」 「静かに入って参れ」 小さいお声で、若様がこちらに声を掛けてくださいました。 わたくしはそっと扉を開いて、下げていた頭を上げたところ、部屋の中にお二人のお姿が見つかりません。 どちらに行かれたのだろうかと思っておりますと、縁側から若様が、わたくしを呼びました。 「一位、こちらに茶を持て」 「あ、はい」 障子をスラリと引きますと、そこには、あぐらをかいた若様のお膝に頭を乗せて、すやすやと寝入っていらっしゃる、雨花様のお姿がございました。 「……雨花様は、どうなさいましたか?」 今はそれほどスケジュールが忙しい時期ではないのですが……。 お疲れでいらっしゃったのだろうかと思いながら、若様のすぐ近くにお茶を置いた時、若様が耳かきを手にしていらっしゃるのが見えました。 「耳かきとは、眠りを誘うようなものであったか?」 若様は手にした耳かきで、ご自分のお耳を掻く素振りをなさいました。 「ご自分でなさるのと、どなたかにしていただくのは、また違うものかと存じます」 「ほう……」 「若様も、雨花様にしていただいたらいかがでしょう?違いがおわかりになるかと存じます」 「……そう致そう」 穏やかな日差しの中、若様が穏やかに微笑んで、雨花様の御髪を優しく撫でられました。 そんなお二人を見ておりますと、何故か胸が温かく、泣きたくなって参ります。 「他に御用はございますか?」 「いや、良い。夕餉まで、余も雨花と寝ることに致そう」 「かしこまりました」 わたくしは、静かに扉を閉めました。 どうぞ幾久しく……お二人が、穏やかでありますように。 そう願いながら。 Fin.

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