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配達
それから1ヶ月ほど経った。その間学校は夏休みに入ったが、亜貴も洋介も相変わらず忙しい毎日を送っていた。
何回か会うことはできたが、ただDVDを見たり、外食したり、ゲーセンに行ったり、カップルというよりは友達がただつるむだけのような感じの繰り返しだった。
「亜貴。ちょお、配達行ってくれへん?」
「ええよ。どこ?」
夏休みも終盤に差し掛かったある日。実家の花屋の手伝いをしていると、母親に配達を頼まれた。実は、夏休みを利用して車の免許を取ったのだが、まだ取りたてでかなり不安があるため、配達はもっぱら自転車で行ける範囲を手伝っていた。
「それがなぁ。初めてのお客さんなんやけど、ちょお遠いねん」
「どこ?」
母親に渡された伝票を見ると、ここから数キロ離れた場所だった。自転車では確かにちょっとキツい距離かもしれない。でも、電車で行けばそれほど時間がかからなそうだ。携帯で位置を調べてみると配達先は駅からも徒歩で行ける範囲だった。
「ええよ。電車で行くわ。一束やから持って行けるし」
「ほんま?助かるわ。ありがとう」
大量に入った注文の花束をせわしなく作りながら母親が答えた。今日は父親も得意先のイベント用の花を届けに朝から出ずっぱりだった。
用意された小ぶりの花束を自転車のカゴに注意深く入れて、駅へと向かう。駅前の駐輪場に自転車を止めると、目的の電車に乗り、数駅で配達場所の最寄り駅へと着いた。
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