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異世界へ(1)

降水(ふるみず)っ!何ボヤボヤしてるんだよっ!さっさと行ってノルマ達成してこいっ! 全く使えない男だな。」 今日もまた怒号と罵声が響く。 そんな部屋から追い立てられるように飛び出してきた。 完全ブラック。飼い殺し。社畜。胃潰瘍。 卑下た単語が頭に浮かぶ。 自分の中で何かがふつりと切れた。 「これまで頑張ったんだし、もう辞めてもいいよな。」 ひとり言と共に、悪環境に耐え切れずに辞めていった同僚達の顔を思い出していた。 1人は胃に穴が開いて入院、1人は鬱になって故郷へ戻り、3人は大喧嘩して辞めていった。 俺も辞めたかったのだが、生来のお人好しが発動して、辞めるタイミングを失っていた。 自然と足が公園に向いていた。 気分が滅入った時に癒されに来る場所。 中央に大きな噴水があり、それを取り囲む花壇には四季折々の花が咲き、人々の憩いの場になっているのだ。 ガコッ 自販機でミネラルウォーターを買った。取り出す時、一瞬妙に光った気がしたが、別に気に留めず噴水に近付いた。 定期的に噴き上がる高さが変わり、水飛沫がミスト状になって、時折虹が見える。 次々と現れる水紋をぼんやり眺めながら、キャップを捻り、口を付けようとしたその瞬間 「危ないっ!!」 大声が聞こえたと思ったら、頭に衝撃を受けた。 「痛っっ!!!」 受け身を取る間もなく、反動でゆっくりと身体が噴水側に倒れ込んでいく。頭に当たったのはボールのようだった。 何故かペットボトルを落とさないように握りしめたまま、ゆっくりと視界が斜めに流れていく。 吸い口から放射線状に零れ落ちる水とともに、俺は煌めく噴水の飛沫の中に飲み込まれていった。 太陽に反射したそれらは、美しい虹を作り出していた。 綺麗…いや、そんなことに感動してる場合じゃないっ! スーツが、靴が、ずぶ濡れになってしまう! どうやって帰ろうか、それより恥ずかしいじゃん… ばっしゃーーーーーん!!! 派手な音を立てて、俺は水に突っ込んだ。

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