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炙り出し(5)
慌てて手を引いた女の手から、薔薇が落ちてしまった。
「もっ、申し訳ございませんっ!」
動揺する女を制し、エルグは跪いて薔薇を拾うと
「すまなかった。怪我はありませんか?」
こくこくと無言で頷く女に微笑みながら、そのうちの1本を短く手折り、女の耳元に髪飾りのように差し込んだ。
エルグは、驚いて目を見張る女に優しく言った。
「あぁ、やっぱり。美しいひとには美しいものが似合う。
…美しいひと…お名前を聞いてもよろしいか?」
「…そんな…美しいだなんて………サリーナ…サリーナ・イーグナーと申します…」
「サリーナ殿、またここでお会いできるだろうか。
薔薇をいただきに来てもよろしいか?」
「はい、勿論ですわ!…お待ちしております…」
「サリーナ殿、美しい薔薇をありがとう。では、また。」
サリーナは、颯爽と庭園を去って行く後ろ姿をその場に立ち尽くしたまま見えなくなるまで見送った。
『美しいひとには美しいものが似合う』
『美しいひと』
エルグの言葉が、繰り返し繰り返し頭から離れない。
「私を……『美しい』と……
あのエルグ様が、私のことを……」
夢のようなひと時だった。
あの力強く優雅に空を舞う空軍隊長のエルグ様が、あんな近くに…
お手にも触れてしまった。
私の髪に薔薇を飾って下さった。
またここに来ると仰った。
サリーナ殿、と名前を呼んで下さった。
どうしよう。動悸が治まらない。
いえ、これは社交辞令よ。本気にしてはいけない。
でも、エルグ様は誰かとお付き合いをしているとか、浮いた噂の一つもない。
真面目で清廉潔白なお方。
その方が冗談でも、あんなことを仰るかしら。
あぁ…本当に素敵な方だった。今でも夢を見ているみたい。
…アイツなんかと大違い。
いくら前国王様のお血筋とはいえ、あんな奴がルース様の跡を継ぐなんて、ありえない。
この国は一体どうなるのだろう。
何とかしなければ。
すっかりエルグに心奪われたサリーナに、ラジェを慕い敬う気持ちなど微塵もなかった。
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