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炙り出し(8)
サリーナを泣かせてしまったと恐縮しきりのエルグは、白薔薇の入った籠を受け取ると、サリーナの手を取り歩き始めた。
突然の接触に心臓が口から出そうな思いをしながらも、サリーナは手を振り解くこともせず黙ってついて行った。
やがて庭園の中程にあるベンチまで来ると、エルグは彼女に座るように勧めた。
そしてその前に跪くと、恭しく彼女の右手を捧げ持った。
まるで王女に忠誠を誓う騎士のように。
咲き乱れる薔薇の濃い香りが、風に舞って2人を包んでいる。
「随分前にこの上空を飛んでいた時、あなたのことが目に入ったのです。」
エルグがぽつぽつと話し始めた。
「何て美しいひとなんだろうと…一目惚れでした。
何とかして話をしたい、仲良くなりたい、その一心で先日やっと勇気を出して声を掛けたのです。
サリーナ殿、あなたがラジェ様の侍従だと重々承知しています。
けれども、私はあなたをお慕いしています。どうしてもあなたを我がものにしたい。
ラジェ様に直談判する前に、あなたの気持ちをお聞かせいただきたいのです。」
真っ直ぐに見つめられて真剣に告白された。
サリーナは我が身に起こっていることが信じられなかったが、自分の右手を包むエルグの手の熱さと、耳に入る言葉に酔いしれて、思わず叫んでいた。
「エルグ様、私も…私もお慕いしておりますっ!
どうか、どうか私をあなたの元に!」
「サリーナ殿!」
気が付くと、エルグの胸に強く抱きしめられ、濃い男の匂いに包まれていた。
あぁ…こんな幸せなことが起こるなんて…
どうか、どうか夢なら覚めないで。
でも…
父上、復讐を果たせない愚かな娘をどうかお許し下さい…
私は目の前に差し出された、この温もりが欲しいの。
あの皇太子の側にいながら、綺麗な身体であることに今は感謝します。
胸に込み上げる様々な思いを抱えたサリーナは、エルグに抱かれたまま、静かに涙を流し続けた。
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