105 / 191
炙り出し(9)
エルグはサリーナを連れ、ラジェの元へと馳せ参じた。
話を聞いたラジェは馬鹿にしたように言い放った。
「そいつでいいのか?物好きだな。
お前ならもっと他にいい女がいるだろうに。
どうしようかな…まぁ、いいけど。
そうだ!丁度いい機会だから、他の奴らもすべて新しい侍従に入れ替えるとしよう。
みんな、クビだっ!
その代わりにエルグ、お前俺の直属の部下になれ。それが条件だ。
もし断るなら、サリーナはお前にはやらない。
さぁ、どうする?」
思わぬ申し出に、一瞬躊躇した振りをしたエルグはサリーナを見た。
縋るようなサリーナの瞳を見て頷くと、意を決したようにラジェを見据えた。
「御意。お望みのままに。
私からもエスティラ様へご報告申し上げて辞令をいただきます。
ラジェ様、これからどうぞよろしくお願いいたします。」
「あっはははっ!
ルースのお気に入りが我が駒になりおったわ!
どうせ義兄上 も戻ってはこれまい。
イスナから知らせが入るのも時間の問題だ。
俺の治世がやってくるんだ!」
頭を下げたエルグの横をラジェは高笑いをしながら通り過ぎていった。
ぎり、と歯を噛み締めたエルグは、すぐに冷静さを取り戻すと、サリーナに視線を移した。
膝の上で硬く結んだ拳が震えている。
「サリーナ。」
優しく名を呼ぶと、サリーナはゆっくりと顔を上げてエルグを見た。
その大きな瞳から、一粒、二粒、と涙が零れ落ちてくる。
その頬の涙を指先で掬い取ると
「泣くな。これでもうあなたは私のものだ。
何も心配することはない。
さぁ、荷物を纏めて。
我が館に連れて行く。」
他の侍従達が不安気に、その様子を遠巻きに眺めていた。たった今、クビを言い渡されたばかりである。
それに気付いたサリーナが振り絞るように告げた。
「あの子達を!あの子達の身の振り方をどうか…このままでは余りにも酷い…」
「皆、荷物を纏めなさい。
一旦私の所へ預かろう。
親元に帰るもよし、働きたければ何処かを紹介しよう。
さ、早く!」
その言葉に、皆は蜘蛛の子を散らしたように見えなくなった。
ともだちにシェアしよう!