3 / 3

#3

「ごめんね、ルビー。こんなことルビーにしか頼めないんだ」 僕はよっぽど切羽詰まった、懇願した顔をしていたに違いない。 まるでダダをこねている子どもを見るような、そんな目をしたルビーは、僕の頰に優しく触れる。 「サファイアとかアゲートとか、昔からいる仲間がどんどんいなくなっていく.......。 僕だけ、どんどん取り残されちゃう.......。 エメ.......エメだけは、僕を置いてかないで.......。 お願いだから」 寂しそうに言うルビーに「うん、わかった」って軽々しく、僕は返事をすることができなかった。 ルビーに心配をかけることはわかっていた。 わかっていたんだけど、僕の気持ちがもう止まらないんだ。 「........ルビー.....ルビーは、本当の自分のこと。 ちゃんと覚えてる?」 「.......うん。覚えてる」 「僕は、どうしても、どうしても、本当の自分を思い出せないんだ。 つい最近までサファイアのことすら忘れていた。 ......だから、本当の自分を思い出したいんだ」 「エメ........無茶はしないでね........。 大好きだよ、エメ」 ルビーは僕の頰に唇をのせると、僕から小さく折り曲げられた紙をそっと受け取った。 「あのお客様にエメは消えたって、宝石達に言うように言ってるんだって?」 「あぁっ......そう....だ.....よ.....んはぁ......」 相変わらず館長は、僕を激しく犯す。 僕を壁に押し付けて、奥までねじ込むように貫くから、まるでレイプされてるみたいな気になるんだ。 ........正直、キツイ...。 「大人になったね、エメ」 「......んっ.....や.....」 「嬉しいよ、エメ」 入れたまま......館長は僕をひっくり返すと、僕の片足を持ち上げて、また、奥に突き上げる。 「やぁ.....やめ.....ぁあ.....」 「エメの、何もかもが好きだよ。 本物の宝石みたいに綺麗なところも、生意気なところも。 お客様にいじめられているところも、何もかも。 エメだけ、特別だから......。特別なんだよ。嬉しいよね?......っ!!......エメっ!!」 「や.....だ........中....や、だぁ....」 僕の願いも虚しく、館長は僕の中で果ててしまう。 ここのところ、毎日、僕は館長に中に出される。 僕が心から館長を愛して、信頼して、まるで恋人のように.......僕は館長のものになった、って。 館長は勘違いしているのかもしれない。 でも、それは。 僕にとっては、単なるメンテナンスでしかないのに。 館長には僕に対する愛があるかもしれないけど、僕には館長に対する愛情のカケラすらない、のに。 こんな激しいメンテナンスを僕にしかしないのも、監視カメラで僕しか見てないのも、少し前から気付いてた。 館長は、僕しか見てない。 僕しか見てないから、アゲートがあんな風になってしまったというのに........。 もう、少し.......もう、少しの我慢。 もう少ししたら、うまくいったら。 僕は、この人から解放されるんだ.......。 メンテナンスが終わって、ヨロヨロになりながら廊下を歩いている僕の前からルビーが近づいてきた。 そして、すれ違い様にルビーは僕の耳元で囁く。 「手はずどおりだよ、エメ。愛してる」 「ありがとう、ルビー。大好きだよ」 お互い顔を見ることもなく、スッとすれ違って、スッと遠ざかって........。 そんな最後にはしたくないけど、したくなかったんだけど。 僕はもう、後にはひけないんだ。 プレイルームの壁に寄りかかって、僕はドアが開くのを待っていた。 .......あと、もうちょっと。 ガチャー。 ドアが小さな音を立てて、そっと開いて……。 僕は緊張しながら、そのドアの向こう側から入ってくる人を見守った。 「エメラルド……?」 「扉を大きく開けないで。 入ったら、壁に体をくっつけるように移動して……僕のところまで………きて、早く」 僕を見て目がなくなるくらい笑う、その笑顔。 僕はその笑顔に、どんな手を使ってでも会いたかったんだ。 「スパークっ!!」 プレイルームの隅……ちょうど監視カメラの死角になるコーナーで、僕らは身を小さくして互いを逃さないように抱き合った。 抱き合って、吐息を感じて、どちらからともなく唇を重ねる。 小さく口の中を割って入る舌がだんだん深く入って、その唇とその吐息を貪るように絡めだして。 ………息があがる。 スパークは僕の頰を両手で覆って、真っ直ぐ僕を見つめた。 「俺、エメラルドに嫌われたかと思ってた」 「………どう、して?」 「エメラルドのことを、たくさんのコに聞いた。みんな〝エメラルドはいなくなった〟って口を揃えて言うし………。 手紙をもらうまで、もう2度と会えないかと思った」 「………僕も、最初はそのつもりだったんだ。 でも……どうしてもあなたに会いたかった。 会って抱きしめたかった」 「エメラルド、俺もだ……」 「……ねぇ、スパーク。お願いを聞いてくれる?」 「何?なんでも言って」 「………僕を、恋人にするみたいに………恋人みたいに抱いて……」 「………エメラルド」 狭いコーナーで僕たちは体をこれでもかっていうくらい引っ付けて、また、深くキスをする。 同じ壁に押し付けられるのでも、こんなにも違うなんて思わなかった。 体を、心を、相手に預けて。 深いところを波打つように突かれて。 ハードなのより、力任せに突き上げるのより。 何十倍、何百倍、ってとろけるくらい気持ちいい.......。 今までたくさんの人と肌を重ねてきたけど………こんなに心に響くのは初めてで.......泣きたくなってしまう………。 「........っ!.....あぁ......ス....パァク」 「……な、に?……エメラルド」 「もっと……もっと………して。 ……僕の………中に……出して……」 「……エメ………好きだ」 「………僕も、、好き」 スパークの全てが欲しかった。 そのキスも、その優しい眼差しも。 僕の中に出して……。 スパークの全てを体の中にしまったら、すごく幸せな気分になって………。 もう、これ以上、何もいらないと思った。 こんなに、肌を重ねることに幸せを感じるなんて、今まで思ったこともなかったし………。 普通の人みたいになれた気がして、嬉しくなったんだ。 2人して……あがるボルテージ。 限界に近づくにつれ、より、体温を欲して、キスを求めて………。 そして、絶頂をむかえる………。 「スパーク……頼んでいたもの、持ってきてくれた?」 「あぁ」 スパークは僕に紙袋を差し出した。 「無理いって、ごめんなさい。 あのお酒、美味しかったから」 「……睡眠導入剤は、何に使うわけ?」 「………最近、眠れなくて。 でも、もう大丈夫!また、前の僕に戻れるから!」 僕の頭に軽く手を置いて、スパークは優しく笑う。 「無理、しないで。エメラルド」 そして、僕たちは………また、深いキスをして、肌を重ねる。 スパークが帰っていって、僕は静かになった部屋に1人ぼんやり座っていた。 色んな人を、騙してしまった。 仲間を騙して。 ルビーを騙して。 館長も、スパークも、みんなを騙した。 僕の欲求を満たすために、みんなを騙したんだ。 僕は、スパークからもらった睡眠導入剤を一気に口にいれて、40度のお酒をラッパ飲みすると、それを胃に流し込む。 「........っあ、.....苦し.........」 体を支えておくことができなくなって、僕の体は床に倒れこんだ。 頭がぼんやり……して。 体が熱くて、重たくて。 僕はゆっくり目を閉じた。 目を閉じると、黄色い菜の花が咲き乱れる小さな家が浮かび上がる。 ………これ、僕が住んでた、家だ。 「ただいま」が言いたくて、僕は急いで家に向かう。 「ただいま!!おとうさん!おかあさん!」 『おかえり、みゆき』 ………そうだ、僕の名前は……みゆき、だ。 やっと、やっと、思い出した。 僕は、一番、僕の本当の名前が、欲しかったんだ。 大好きな人に、恋人みたいに抱いてもらって。 名前も取り戻して。 おとうさんもおかあさんもいて。 懐かしい我が家からは、綺麗な菜の花が揺れるのが見えて。 もう、苦しい思いをしなくていい。 もう、痛い思いもしなくていい。 もう、泣かなくていい。 ここには、僕の幸せしかない。 そう、ここは、理想郷………。 本物のArkadia。 僕は、ようやく、Arkadiaにたどり着いたんだ。 僕の、Arkadiaー。

ともだちにシェアしよう!