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24. 5
最近アキ子さんはペットが欲しいと言ってたし
コイツを見せて頼めば、飼っていい とOKが
出るかも。
「どうしたの?」
荷物を散らかしたまま、外に出て戻らない
俺を心配して、マスターが出てきた。
「見て、マスター。車の下に居たんだ」
「へぇ、よく捕まえられたね」
「ね、自分から出てきたよ
野良っぽいし、連れて帰ろうと思って」
「飼えそうなの?」
「たぶん、最近ウチの人たちペット
欲しがってたから、こんな可愛いの見たら
嫌って言えないよ」
俺はニッと笑った。
「そうか。
良かったなおまえ見つけてもらえて」
マスターも仔猫の小さな頭を撫でて
目を細める。
「たまたま店に来て、たまたま見付けるなんて
出会う運命だったんだなぁ…」
「うん、そうだよね!
俺に飼ってほしくて出てきたんだよな~?」
また仔猫がタイミングよくミーと鳴いて
ほらね?、と俺が言うと、マスターも本当だ、と
笑った。
「何か食べさせてみる?ミルクとか」
言いながらマスターは店の中に戻っていく。
「うん、ありがと。マスター」
俺は仔猫の脇に手を入れて持ち上げて
仔猫についてるモノを見た。
「男の子かぁ、じゃぁ真っ黒だし
名前はタロウだな!」
仔猫はミーとまた返事をした。
「晃太くん寒いから入っていいよ
裏に連れてきて」
「ありがと。タロウ寒かったなぁ」
「タロウ?渋い名前つけるねぇ」
「そう?タロウって顔してない?」
「……どんな顔か知らないけど素朴で
意外といいかもね」
「でしょ?」
俺の手の中の仔猫は、まるで話を聞いている
みたいに大人しくじっとしていた。
安心しきった顔を俺の胸に寄せて。
小さいけど暖かい
トクトクと小さな鼓動が
伝わってくる。
「生きてるんだな…」
何の気なしに、当たり前の事を
言っただけなのに、自分の言葉に涙が込み上げる。
「あれ? なんで?」
どうして泣けてくるのか分からず
あわてて天井を見上げ、目を閉じた。
腕の中の柔らかく暖かいものは
どこか懐かしい。
俺を、大きな瞳でじっと見つめて鳴く。
“命”というものは、こんなにも
力強く愛しい…。
この小さな生き物は
俺にとって、愛そのもののようだった。
小さいけれど 大きな
俺の
愛の固まり。
~ 完 ~
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