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24. 4
声に耳を澄ましながら、窓の外を覗いた。
確かに時折小さな声が聞こえるのに
窓から見える場所には猫の姿なんてなかった。
聞こえてくる声は、明らかに仔猫の声だ。
何故だか気になって仕方なくなり、荷物など
そのままで、店の外に出た。
店の目の前は車数台が置ける
駐車スペースとなっている。
今も店内の客の車が1台だけ停められていた。
隣の建物との隙間や、植栽の間を見ても
姿はない。
その時また小さな声が俺を呼んだ。
しゃがみこんで車の下を覗くと
探していた声の主がいた。
突然現れた俺の姿に驚いて、小さな体を
一層小さく丸めて固まり、大きな目で
こちらを見た。
それは本当に小さな黒い固まりだった。
「おいで…」
手を伸ばして呼んでみると、ビクッと体を
震えさせて、一瞬逃げる素振りをする。
ー のら猫かな?親とはぐれたか?
このままこの小さな仔猫が、こんな寒空の下で
1人で生きていけるとは思えない。
道路に飛び出したりしたら?カラスや別の
動物に狙われたら…?
「おいで、 大丈夫だよ」
優しく声をかけても動かない。
当たり前か、と、ため息をついた。
マスターに、何かエサになるものをもらって
来ようか…。
「おいで…一緒に帰ろう」
何も考えずにその言葉を言った時
突然仔猫が頭を上げて、俺に向かって
車の下から駆け出してきた。
伸ばした手のひらに自ら飛び込んで来るように。
抱き上げると、大きな瞳が俺を見つめて
小さく鳴き声を上げた。
子猫はまだ俺の両手にすっぽり隠れてしまうほど
小さかった。
きっと生まれて1月と経っていないだろう。
「可愛いなぁ、おまえ…。
俺と帰りたいの?」
儚く愛らしい姿に1発でやられた俺は
すっかり猫なで声で話しかけた。
それに応えるように仔猫がミー、と鳴く。
「よしよし、いい子だな」
仔猫は俺が何かいう度に、まるで会話でも
しているようにミーと鳴いた。
指先で顔まわりを撫でると目を閉じて
気持ちよさそうに受け入れる。
ー か、可愛すぎる!
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