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第5話

「嫌だっっっ!!!」 青葉は頭と身体を大きく前後左右に振りながら叫ぶ。しかし、優也は動じることなく、全裸のまま後ろ手に縛り上げた青葉の肩を掴み、無理やり歩かせる。 「"なんでもする"って言ったのは青葉さんじゃないですか。守ってくださいよ。」 「これはっ!無理だっ!」 数ヶ月前、旧知の寄席の経営不振を助けるため落語二人会を青葉は計画した。出演は自分と弟子の優也。優也は落語以外にもタレント活動をしており知名度が高く、集客効果があると考えてのことだった。 優也に出演を打診したところ、優也が出演承諾する代わりに出した交換条件は2つ、「落語二人会に関わることをする時は必ず優也の自宅にくること」「2人きりの時は本名で呼び合うこと」。 優也は、一回り以上も年上の青葉に10年近く片思いをしていたため、交換条件を飲ませることで青葉と体の関係を求めた。 結果、青葉は交換条件を受け入れた。妻子を持ちながらも、優也に絆され関係を止めることが出来ずにいた。 その日もいつものように優也の家で身体を重ねたのだが、行為の最中、「なんでもする」と青葉は口走っていた。ただ、子供が度々口にする「一生のお願い」と同じように、青葉は毎回のように懇願する際は口にしていた。そして、今まで実際に優也から何かを求められることはなかった。 今回初めて要求され、青葉は動揺していた。 バスルームに連れて来られると、青葉は無理やり座らされる。床から伝わる冷たさが青葉の緊張感をさらに高まらせる。そんな青葉を見下ろす優也はシャワーを手に取り蛇口を捻ると、温水の温度を確認し始めた。 「青葉さん、足を広げてください。」 「頼むから!やめてくれ!」 深く眉間に皺を寄せ懇願する青葉に、優也はため息をついてしゃがみこむ。 「明確な理由、あります?女将さんとはもう一緒に寝ていないんですよね? セックスもしていないんですよね?誰かに裸を見られる可能性、ありますか?」 明らかに不機嫌な声色、しかし淡々と話す優也。"誰かに秘密を知られる"可能性は、確かに、低かった。そうなると、「なんでもする」と優也に言っている手前、感情的な理由だけでしか反論できない青葉は顔を背けることしか出来ない。 「言った通りにやってくれないなら、足も縛りますよ?」 優也の最終通告だった。青葉は顔を背けたまま、恐る恐る両足を広げる。優也は頬を僅かながら緩めると、適温になった温水を青葉の股間にかけ始めた。 「んっ!」 突然の温水に青葉は身体を一瞬震わせ、反射的に足を閉じようとするが、優也は膝を押さえる。そして、陰毛の量や毛質を確認するかのように触ったり漉きながら青葉の顔を覗き込む。 「貞操帯をつけるには邪魔。…というか、衛生的な方がいいので剃っちゃいますね。」 優也の言葉に驚き、青葉は反発するかのように優也の顔を見る。しかし何も言えず、青葉は再び顔を逸らすしかなかった。優也は軽く笑うとシャワーを止める。 青葉を促し、バスタブの縁に座り直させると、優也はシェービングクリームを青葉の股間に塗り始める。優也の指遣いとクリーム独特の感触による気持ち良さや、剃毛される羞恥心でもう既に青葉の顔は紅潮し始めていた。 「傷つけたくないから、動かないでください。」 シェービングクリームをくまなく塗られた青葉の股間に優也はそっと剃刀を置く。青葉は抵抗しない。ただ、顔はさらに紅潮し、息遣いが荒く、胸が大きく上下している。そして、瞼はきつく閉じられている。 優也が剃刀を動かし少しずつ陰毛を剃り始めると、バスルームには青葉の荒い呼吸と剃毛する音だけが響く。ゆっくり、そして確実に、きれいに剃り上げられた部分が広がっていく。 どんなにきつく瞼を閉じていても、剃毛する音や空気に晒されひんやりする肌、そして剃り残しがないか確認する優也の指触りで剃毛が夢ではないことを思い知らされてしまう。青葉の目尻から涙が溢れる。 綺麗に剃り上げると、優也はシャワーの蛇口を捻り再び温水を青葉の股間にかける。一瞬、青葉は身体を震わせるがもう足を閉じようとはしなかった。露わになった青葉の陰茎からは水が滴っている。 「それじゃあ、貞操帯つけますね」 優也の言葉に、青葉は反応することも言葉を上げることもない。目を閉じ、時が過ぎることを待っていた。しかし、カチャカチャと金属音が耳に入った途端、青葉の体が震える。青葉は薄く目を開くと優也を視界に捉え、弱々しく声を出した。 「優也、頼むから…」 「ダメです。」 優也は青葉の言葉を遮り否定した。一切受け付ける気がない口調に青葉はため息をつき、再び瞼をきつく閉じた。現実を見たくなかった。 しかし、現実は何も変わらない。陰茎に装着される貞操帯のひんやりとした感触、そして鍵をかける音に青葉の全神経は嫌でも研ぎ澄まされた。 「良かった。サイズ丁度だ。」 そう言うと、優也は立ち上がり、青葉の両腕を解放しながら耳元で囁く。 「10日後までちゃんと"良い子"にしていてくださいね。」 ようやく目を開けた青葉は震える手で貞操帯に触れた。拘束され、優也に管理される羞恥心を感じつつ、心のどこかで興奮している自分にも気づいていた。 青葉が貞操帯をつけてから5日経っていた。 誰にも見つかってはいないが、青葉はずっと違和感に悩まされていた。気になって何度も触ってしまい、今はそっと触れるだけでも痛い。落語の稽古にも集中できない。 青葉は思い切って優也に電話した。 「青葉さんから電話なんて珍しい。どうしました?」 「その、…貞操帯が…ずっと痛いんだ。落語の稽古に集中出来ない。鍵を取りに行くから外させて欲しい。」 「……言っていませんでした?俺、今、ロケで福岡ですよ。」 仕事で10日後にしか会えないとは言っていたが、地方に仕事で行っているとは思っていなかった。青葉は目の前が真っ暗になる。もうどうしようもない。 「…そう…か。東京に帰ってきたらすぐに連絡…」 「あ!そうか!青葉さんって明後日まで身体空いてます!?」 青葉の言葉を遮り、突然、優也は興奮ぎみに声を上げる。 「…あぁ、仕事は無いが。」 「良かった!それじゃあ明日、福岡に来てくださいよ!」 「何を言っているんだ!」 青葉は驚いた。わざわざ会いに行くなんて発想はなかった。 「いいじゃないですか。時間はあるんだし。来てくれたらちゃんと外してあげますよ。 えーと、飛行機のeチケットは夕方までに送ります。女将さんには適当に言い訳して来てください。」 青葉の言い分は全く聞かず、優也は言いたいことを言うと電話を切ってしまった。思い悩むが、「妻が疑わない言い訳か…」と考えている時点でもう、青葉の心は福岡に向かっていた。 翌日、青葉は福岡にいた。 指示された通り、空港の駐車場に行くと優也がいる。もう有名人と言ってもおかしくないほど人気のある優也は、普段とは違って帽子を目深に被り、薄く色のついたサングラスをかけていたがすぐに分かった。優也も青葉に気づいたようで笑顔を向ける。車に乗ると、慣れた手つきで優也は車を発進させた。 「青葉さんに来てもらえて良かった。 俺、明日の昼まで時間が空いているんです。遊びに行きましょうよ」 優也は屈託のない笑顔を見せる。20代の若者らしい笑顔で安心する。 「それは良いが…。私の航空券代を支払わせるわけにはいかない。まず先に…」 「お金、要らないです」 青葉の言葉を優也は遮る。優也の顔からは笑顔が消えていた。 「青葉さんの立場上、奢られるなんて有り得ないのは分かります。 でも、青葉さんの財布って女将さんが管理しているんですよね? 金の使い道から俺たちのことがバレて二度と会えなくなるなんてことになったら嫌です。」 苦々しく、吐き捨てるように言う。財布を管理されていることは本当なので、青葉は何も答えられない。 「まぁ大したお金でもないし。…その分、身体で返してくださいよ」 そう言って笑うが、青葉は笑えなかった。もうずっと、会うたびにいつも泣いて優也に縋っている。おそらくきっと今日も、だ。そんなことを考えていると憂鬱になりながらも、今までのことを思い出して青葉の芯が熱くなりそうだった。 軽く頭を振り、最近の仕事や落語二人会の話をする。優也はテレビの仕事が多くなっていて、落語二人会の準備にまだ手をつけられないらしい。まだ時間はあるが、青葉は車窓の流れる景色を見ながら、深いため息をついてしまう。 「着きましたよ!」 優也が嬉しそうに声を上げる。そこは水族館だった。 …また子供っぽい場所を選んだな。 そう思うが、青葉にとっては何十年ぶりの水族館。巨大水槽などでの最新の展示方法には新鮮な驚きもあり、つい優也より先に足が進んでしまいそうになる。その時、優也が青葉の袖を掴んだ。 「…青葉さん、手、繋ぎましょ。」 優也は機嫌を伺うような笑顔を見せると、返事を待たず、青葉の右手を取って歩き出す。青葉は優也に手を引かれつつも慌てて周りを見渡した。 「人に見られたら…」 「気になります?じゃあ、こうしましょう。」 優也は自分のジャケットの左ポケットに、青葉と手を繋いだまま差し込んだ。そして、イタズラっぽく笑いながら呟く。 「ずっと青葉さんとデートしたかったんですよね。こんなふうに手を繋いで。」 優也の本当の目的を青葉は知る。 平日の昼間で人はまばら。そして日中でも館内は薄暗い場所が多いので、手を繋いで歩いても人に見つかりにくい。結果、水族館にした。 …やはり子供っぽい理由だな。 青葉はそう思うものの、弟子入りから約10年も想い続けてくれたと言う優也の気持ちを考えると手を離すことができなかった。 手を繋いだまま、いろんな展示生物を見ながら進んでいく。知ってはいるものの初めて見る海洋生物、存在自体を初めて知る変わった生物などがいて飽きることはなく、2人は他愛のない会話でも盛り上がる。 その中には深海魚コーナーがあった。ただでさえ館内は薄暗いのに深海魚コーナーはさらに暗い。恐る恐る青葉が覗くと、優也が先に中へ入り手を引っ張られた。 突然のことに慌てる青葉。体のバランスを立て直すと、目の前に優也の顔があった。そして驚く間も無く口づけされた。青葉は反射的に優也を押し退けると、小声で諌める。 「優也!」 「大丈夫、人はいませんよ。」 青葉が周りを見渡すと、確かに誰もおらず、また深海魚コーナー自体が死角になっている。青葉は一呼吸して安堵する。が、その青葉の顎に手を添えて持ち上げると、優也は再び口づけをしてきた。しかも今度は舌を差し込んできた。 「んっ!」 青葉は優也を押し退けようにもきつく抱きしめられていた。逃げられない。そして、舌が絡み合う感触に加えて、いつ人に見られるか分からない興奮を感じているのも事実だった。誘惑に流されて、青葉は優也に順応し、互いの舌を舐め合い絡ませる。2人の耳には、2人の荒い息遣いと舌が絡み合う音、水槽の中で循環する空気の音しか聞こえない。 ずっと続くかと思えたその時間。先に気づいたのは優也だった。優也が顔を持ち上げるとほぼ同時に遠くから女性の笑い声が聞こえてくる。優也は青葉の耳を甘噛みしながら囁いた。 「外でキスするの初めてでしたね。少しは慣れました?…また後でゆっくり楽しみましょう。」 優也は再び青葉の手を取るとその場を離れる。青葉は優也と歩きながら、優也の言葉に不安を感じずにはいられなかった。 水族館を後にし、次に到着したのは映画館だった。いわゆるシネコンで、平日だったが、それなりに人が多く賑わっていた。 …水族館に続いて子供っぽいな。 楽しそうな優也を横目にそう思いつつも、映画を日常的に観ない青葉にとって興味深い場所ではあった。青葉は上映中の作品どれ1つも知らなかった。優也から簡単にあらすじを教えてもらう。 「それで、優也は何が見たいんだ?」 「んー、なんでもいいです。」 「…そういうわけにはいかないだろう。」 「青葉さんが見たい作品でいいです。来てもらっているし。」 とりつくしまもない。青葉は結局、時代劇を選ぶと、優也はすぐにチケットカウンターへ購入に向かった。 全ての支払いを優也がしていたため、どの席を購入したか青葉は知らなかったし、むしろ気にも留めていなかった。映画を観られれば良かった。そのため座席を劇場内で確認して青葉は驚く。いわゆる普通の座席ではない。靴を脱いで寛げるほど座面が広く、もはや2~3人がけのソファーといった方が正しい。普通の座席とは別に区画され、ちょっとしたスペースになっている。おそらくカップル用のシートなのだろう。優也を慌てて見るが。 「どうせなら良い席で見たいじゃないですか」 優也は笑顔でこともなげに言うと、早速靴を脱いでソファーに上がり感触を確かめ始めた。青葉はそんな優也に軽くため息をつくと、ソファーの端にゆっくり腰をおろす。 上映開始時間になり、場内が暗くなった。スクリーンに様々な予告映像が映し出される。途端、優也は青葉の手を引く。もっと近くに来るように、と。しかし、多くないとはいえ他にも客がいた。見られる可能性がある。周りを見渡し、青葉は首を横に振る。 優也の顔が曇る。いや、空気感が変わったことが青葉に分かった。しかし、気づいた時にはもう遅かった。青葉が抵抗する間も無く、優也は青葉の体ごと強引に引き寄せ、自分の腕の中へ抱き入れた。耳元で囁く。 「ダメですよ。一緒に見ましょう。」 低く、そして言い聞かせるような絶対的な声。青葉は拒否出来なかった。 「靴、脱いでください」 青葉は靴を脱ぐと、ソファー深くに座っている優也の腕の中、背中に優也を感じながら座り直す。座面が広く、青葉が両膝を立てて座るとちょうど良い広さだった。優也は青葉を背中から優しく抱きしめると、耳や首すじを優しく唇で刺激する。 「…やめてくれ」 周りに聞かれないよう、青葉は小声で優也に乞うが止める気配は無い。青葉は瞼を閉じ、声を上げないよう注意を払うしかなかった。 やがて映画本編が始まり、場内の暗さがより深くなると、優也は青葉の全身をゆっくり触れていく。胸、腕、背中、足…。まるで盲目の人が対象物を手で触れることで、全体の形を把握するように。そして、時々思い出したかのように、優也は青葉の掌に自分の掌をのせて指を絡ませ、青葉の耳を甘噛みする。 映画を見る気配が優也には全くない。 …最初からこれが目的だったから観る作品をなんでも良かったのか。 青葉は優也の本来の目的を知る。しかし知ったところでどうしようもない。受け入れるしかなかった。映画に集中出来ず、上の空で青葉はスクリーンを眺め続ける。 やがて優也の行為はエスカレートしていく。優也の指は青葉のシャツの中に滑り込み、肌の上を直接滑り始める。我慢できず、青葉はシャツの上から優也の手を握りしめ、再び乞う。 「…やめてくれ」 優也は空いている手で青葉の手を取ると、自分の太腿に置く。そして優也の耳元で囁く。 「俺のことは気にせず、映画、楽しんでくださいよ。」 シャツの中の優也の手は再び青葉の肌の上を滑り始める。青葉は優也の太腿に指を立て耐えるしかなかった。 しかし、肌を直接触れられる刺激は蓄積されていき、青葉はとうとう我慢できずに俯き、唇を噛んでいた。胸は大きく上下し、息も荒い。音を立てないことだけに青葉は集中していた。当然、映画を見ている余裕なんてもう無い。 優也はそんな青葉を見ながら薄く笑い、耳元で囁く。 「ねぇ、キスしましょう…」 青葉は小刻みに何度も首を横に振る。 「誰も見ていないですから…。 合戦なのかな、もうすぐ山場のシーンみたいで大音量になりそうだから 少しぐらい声を出しても大丈夫ですよ。きっと。」 青葉は俯いたまま、大きく何度も首を横に振る。しかし、優也の気持ちは変わらないのだろう。青葉の唇をゆっくり撫で始めた。堪らず青葉は優也の腕の中から逃れようとするが、優也に強く抱きしめられた。 逃げられない。 「逃げちゃダメですよ。ペナルティ、ですね」 そう優也が耳元で囁く時とほぼ同時に、場内の音量がどんどん大きくなっていく。もう映画を見ていなかった青葉でも山場のシーンだと分かった。 「歯、立てないようにしてください。」 そう囁くと、優也は青葉の顎を持ち強引に持ち上げ深く舌を絡ませた。そして、青葉の肌の上を滑っていたもう片方の手で青葉の乳首を捻り上げた。 「んーっっっ!!!」 青葉は大きく目を見開いて背中を反らし、そして足はソファを踏みしめる。青葉の両手は訴えるかのように優也の両腕にしがみついた。しかし優也はそんな青葉にむしろ目を細めて喜び、さらに舌を深く差し入れ絡めとり、乳首を何度も無遠慮にきつく捻る。 青葉は全身を小刻みに震わせ、目には涙を浮かべている。それは苦痛もあったが、快楽も混在していた。優也から与えられる刺激は快楽に変換され、体の芯が熱くなってしまう。 離して欲しいと思いながらも進んで舌を絡めてしまう。快楽を楽しみたい本能と理性がせめぎあっていた。 青葉に残っている理性は音を少しでも立てないことだけに集中していた。 映画のシーンが変わり、場内の大音量が収まると同時に優也は青葉を解放した。青葉は体勢を変えて優也の胸へ崩れ落ちる。そして、目に涙を浮かべて荒い息のまま、優也を見上げる。 「…鍵…鍵を外して欲しい…痛いんだ」 小声で必死に訴える。見ると、青葉の腰が揺れている。優也は薄く笑うと青葉の耳元に口を寄せる。 「あぁ、気持ち良すぎちゃいました? でも、こんなところでイっちゃうなんて変態になっちゃいますよ。 声もきっと出ちゃうだろうし。落ち着いてください」 まるで赤ん坊をあやすかのように、優也は青葉の背中を優しく叩く。青葉は観念したかのように、体を小さく丸め優也の胸に埋めると、体の火照りが少しでも収まるよう呼吸を整えるしかなかった。優也はそんな青葉の髪を優しく撫でながら抱きしめる。 青葉が映画を見ることはもう無かった。 「青葉さん、もう出ましょう」 耳元で囁かれ、青葉がスクリーンを見ると映画はエンディング間近のようだった。優也に導かれるまま場外に出るが、場外の明るさにまだ目が順応しきれないうえに股間の疼きがあり立ち止まってしまう。そんな青葉に気づき、優也は青葉の手を取り歩き出す。 しかし、僅か数メートル歩いたところで手を振り払われた。突然のことに驚き、優也を見ると、優也の視線の先には若い女性2人組。2人は視線を何度も優也に投げ、明らかに認識していた。優也が笑顔を向けると女性2人は駆け寄ってくる。 「吉次さんですよね!?ファンです!握手してください!」 優也は笑顔のままファンサービスを始める。青葉は静かにその場を離れた。 ファン対応を終えた優也と合流後、車でホテルへ移動する。もうだいぶ陽が落ち、車窓からの景色はイルミネーションで彩られていた。 到着したホテルはハイクラスホテルだった。ホテル自体も豪華だったが、部屋の広さにも青葉は驚く。 「いつも仕事ではこんなホテルに泊まっているのか?」 「まさか。」 優也は笑う。テレビ番組が用意したホテルとはまた別にホテルを予約していた。 「青葉さん、声が大きいから。普通のホテルだと、ね。」 優也はそう言いながら、クローゼットに荷物を置き、ハンガーにジャケットをかける。 …そこまで追い詰めるのは優也じゃないか。 青葉はそう反論したかったが、グッと堪え、室内を歩く。足裏の感触でカーペットが上質だと分かる。革張りソファに触れてみると、触り心地も弾力も心地よい。窓は全面ガラス張りで、室内の照明を抑えているためか、他の部屋の照明と夜景が一体になり、とても綺麗だ。 師匠を見習い、質素に暮らすことに慣れている青葉にとって馴染みのない空間だった。 ソファに座って一息つくと、青葉は物思いに耽ってしまう。映画館で優也に手を振り払われたことが喉に刺さった小骨のように残っていた。気を抜くとそのことばかり考えてしまっている。優也は目ざとく青葉の変化に気づいていた。 「青葉さん、何かありました?」 「…いや、何も」 優也は軽くため息をつく。 「俺が気づいていないと思っています?話してください。」 誤魔化すことを許さない意思の強さを感じた青葉は諦めて口を開く。 「ずっと私のことを想っていてくれたと言ってくれていたが、 …もう私に飽きたんじゃないか? 歳がかなり違うから、価値観や世代間のギャップで優也が楽しめるような会話は出来ていないだろう。 それに、若い女性に比べたら…抱き心地も悪いだろう。 もう私は若くないから優也が満足することはやれていないだろうし。」 一気に話した青葉だが、気まずくて優也の顔を見ることができない。冷蔵庫から缶ビールとミネラルウォーターを取り出しながら、優也は大きなため息をつく。 「話がまっったく見えないので、最初から話してください。何があったんですか?」 明らかに不機嫌な声だし、むしろ優也はそれを隠そうともしていない。 ここまで話してしまったのだ。青葉は伏し目がちのまま言葉を続ける。 優也は青葉の前にミネラルウォーターを置くと、自分は缶ビールを開けて飲み出す。 「…さっき、ファンの女の子がいただろう。 若い女性と並ぶ優也を見て、これが当たり前なんだと思ったんだ。 きっと女性の方がいろいろと魅力的だろうし、…悔しいが、私には勝てるほどの魅力はない。 …いつか私への熱は冷めるだろう。いや、もう飽きているんじゃないのか。」 青葉は思っていることは全て吐露した。感情が昂ぶったのか、泣きそうになり青葉は目を閉じた。 青葉は優也の言葉を待つ。しかし、優也は何も話さない。確認しようと青葉が目を開けると、すぐ目の前に優也がいた。 缶ビールをテーブルに置くと、青葉を挟むように優也はソファに両手をおく。 「えーと、つまり、どっちですか? 悔しいってことは、嫉妬しているんですよね。 女に嫉妬して自信を無くしているんですか? それとも、俺のことを全く信用していないんですか?」 「信用していないわけじゃない!」 優也を傷つけたいわけじゃない。慌てて青葉は反発する。が、その言葉を聞いた優也は薄く笑う。 「ということは、女に嫉妬するほど俺のことを思ってくれているんですね。嬉しいなあ。」 「…あ、いや」 青葉は優也から目が離せない。 「気づいていないみたいだから言いますけど、青葉さんの体、だいぶいやらしいですよ。 …というより、俺たち、体の相性がすごく良いと思うんですよね。」 優也はソファに片膝つくと、青葉の顔を両手で持ち上げる。そのまま唇を指でなぞると口を開ける。青葉は優也に魅入られたかのように動けない。優也は、ゆるりと舌を絡ませた。青葉は反射的に優也を押し退けようとするが、すぐに組み敷かれてしまう。そして、舌が絡み合う感触や音で青葉の理性は麻痺し、快楽に流され、優也を受け入れてしまう。 クスクス笑いながら、優也は顔を持ち上げる。 「ね?気持ち良いでしょ?俺も気持ち良いですよ。全然飽きない。…それでいいですか?」 青葉は視線を泳がせながらも、頷くことしかできなかった。 優也は立ち上がろうとするが、動きが止まる。 「そうだ。前から聞きたいことあったんですけど、青葉さんってキスがすごく好きですよね。 どうしてですか?」 不躾なほどにストレートな質問に青葉は赤面し顔を背ける。 しかし、優也は缶ビールを再び飲みながら、遠慮もせず続ける。 「誰とでもキスしているんですか?」 「違う!」 ふしだらな人間と言われているようで慌てて青葉は否定する。しかし、恥ずかしさでまた顔を背けてしまう。 「分からないが…。…たぶん、…優也の存在を一番感じるんだと思う。 気持ちとしても…その、肉体としても。」 そう答えることが青葉には精一杯だった。 「嬉しいなあ。」 優也は含み笑いをしつつ、青葉の顔を再び持ち上げると、深く口付けをする。青葉は抵抗せずに受け入れた。舌が絡み合う感触や音、優也の唾液が喉に流れ落ちていく感覚に加え、ビールの味がほのかにする。 …変だ。酒は苦手なのに、ビールの味がとても美味しい。 無意識に青葉の両手は優也の両腕にしがみついていた。まるで、もっと欲しいと言っているかのように。優也は青葉を抱きしめると耳元で囁く。 「シャワー浴びてきてください」 その時だった。携帯電話の着信音が響き渡る。 青葉の携帯電話だ。青葉は慌てて今までになく強い力で優也を押し退けると腕の中から逃れ、着信相手を確認する。妻だった。青葉は優也を一瞥するとルームキーを持って急いで部屋を出た。妻との会話を聞かれたくなかった。 青葉は外泊する旨は伝えていたが、本来自宅で片付ける予定だった諸用は放置していた。その確認の電話だった。先延ばしには出来ないこともあったため、一つ一つ話し合い、差配する。ひと段落して電話を切る頃には10分以上経っていた。 青葉が部屋に戻ると、薄暗い部屋の中、優也はソファに座ってビールを飲んでいた。手元を見ると既に2本目のようだ。青葉は躊躇いがちに声をかける。 「済まなかった。」 「電源切って欲しいですけど、電話が繋がらないと不自然ですよね。」 青葉に視線も向けず返事をする優也。冷静さを装っていたが、不機嫌なことは青葉に伝わってきていた。 「済まなかった。シャワー使うよ。」 居た堪れず、青葉はバスルームに逃げ込んだ。しかし、シャワーを浴びても当然耳当たりの良い言い訳なんて全く思い浮かばない。 バスローブを着て部屋に戻ると、先ほどとは何も変わらず薄暗い部屋の中、優也はソファで缶ビールを飲んでいた。…いや、先ほどと違い、缶ビールは3本目になっていた。青葉は優也に歩み寄る。 「ピッチが早くないか?」 心配して声をかけるが、気にも止めず、優也はビールを飲み続ける。青葉は申し訳なさそうに話しかけた。 「次からはマナーモードにして…」 「まずはペナルティ、かな。」 青葉の言葉を遮ると、空いた缶ビールを置き、ゆっくり立ち上がった。青葉の口元は笑っているが、目は笑っていない。 不安を感じ、青葉は無意識に後ずさりしてしまうが、優也は青葉の腕を掴み、有無を言わさず、ソファに押し倒した。乱暴にバスローブを剥ぎ取り、バスローブの紐で青葉を後ろ手に縛り上げる。青葉は身じろぎひとつせず、むしろ進んで受け入れる。縛られることは多くなっていたからだ。 しかし、その後何をされるかは分からない。自然と青葉の呼吸は早くなる。 「腰を上げてください」 優也に言われるがまま、青葉は腰を突き上げる。股間の間からは貞操帯をつけた陰茎を見える。 「貞操帯を早く外すんだからペナルティですね。」 優也はホテルの備品である靴べらを青葉に見せつける。そして、青葉の臀部を優しく撫でる。青葉は全てを察し、眉間にしわを寄せるが、何も言わずきつく瞼を閉じると、ソファに顔を埋めた。 優也は薄く笑うと、靴べらで青葉の臀部を容赦なく叩いた。肌を叩く乾いた音が室内に響く。青葉の体は一瞬大きく震え、くぐもった声がソファから聞こえる。 「2人きりなんだから、思う存分声を出してもいいのに。」 そう言っている間も優也の手は止まらない。連続で何度も叩いたかと思うと優しく撫で回し、優しく撫でていたかと思うと爪を立てミミズ腫れになるほどの強い力で引っ掻く。その度に青葉の身体は震え、くぐもった声を上げる。 やがて一瞥しても分かるほど青葉の臀部は赤く腫れてきた。優也が軽く触れると青葉の身体は震えるが、未だ姿勢を変えず、打ち叩かれることを健気に待っていた。 おもむろに優也は靴べらを床に捨てる。青葉の下半身と正対するように優也はソファーに腰掛けると、臀部を優しく撫でては平手打ちすることを繰り返した。叩くたびに甲高い音が室内に響く。 しばらく続けたあと、優也は青葉の臀部にゆっくりと舌を這わせた。驚いた青葉は振り返ろうとするが。 「動かないで」 優也の低く、絶対的な声。青葉は再び顔をソファに埋めた。 優也も再びゆっくりと舌を這わせる。思いつくままに平手打ちしては、その箇所をゆっくり舐める。特に赤く腫れかけている箇所は何度も叩き何度も舐め上げる。叩かれる痛みと、舌で舐め上げられる気持ち良さが交互に繰り返され、青葉の腰は小刻みに震え続けている。 頃合いを見計らい、優也は青葉のアナルに人差し指をゆっくりと差し入れる。内部で人差し指を曲げカギ状にすると、乱暴に指を回し内部を引っ掻く。同時に青葉の身体が大きく震え、上擦った声を上げた。優也は薄く笑う。 「感度、いいですね。もう欲しくて堪らないですか?」 青葉は僅かに首を横に振る。優也は指を2本にして前後させ始める。時には性感ポイントを刺激したり、時にはピストンの動きを早くし、時にはわざと乱暴にかき回す。 「やあっ!んぅっ!」 青葉は我慢できず喘ぎ声を上げ始めた。優也はさらに追い詰めるかのように、アナルを押し広げ、舌を差し込む。 「いやぁ!それはっ!ダメ…だっ!」 舌でなぞられ、舐められる感触に青葉は全身を震わせ、あまりの気持ち良さで腰が落ちそうになるが、優也は容赦なく平手打ちをして許さない。 青葉は必死に体勢を保とうとするが、足はガタガタと震え続けたままだった。 与えられる快楽は青葉をどんどん追い詰めるが、捌け口はきつく閉じられている。青葉はとうとう堪らず声を上げる。 「もうっ!外してっ…くれっ!」 貞操帯の中で青葉の陰茎は膨らみ、悲鳴をあげていた。そんな青葉を見て優也は笑う。 「まだ大丈夫でしょ?」 青葉は激しく首を横に振る。 「た…のむっ…からっ!」 「…どうしようかな」 そう簡単に外す気が無いことを知り、青葉は焦燥感に駆られる。しかし、何も出来ず、虚しく腰を揺らすばかりだ。 「…あぁ、そうだ」 優也は青葉を抱き起こし、正対するように自分の膝に座らせると笑顔を向ける。 「おねだりのキス、してくださいよ」 青葉は今まで自分から優也にキスしたことが無かった。一瞬、躊躇する。しかし、捌け口を求める誘惑には勝てない。膝立ちすると意を決して唇を重ねようとした、その時。 「やあっっっ!!!」 青葉の身体が大きく跳ねる。 「ゆうっや!やめって…くれっ!」 優也は青葉の臀部を激しく揉みしだいていた。痛みと快楽がせめぎ合い、そして新しい快楽に生まれ変わり青葉を襲う。ズキンズキンと脳内に直接響き、青葉の思考は霞がかかったかのようにまとまらなくなる。 「おねだりのキス、しないと終わりませんよ?」 優也は手を止める素振りはない。青葉はどうにか体勢を立て直すと、震える唇を優也の唇に重ねた。荒く呼吸をしながら青葉はゆっくりと顔を上げ優也を見る。しかし、優也の顔には笑顔が張り付いたままだった。 「青葉さん、いつものキスで、お願いします」 青葉はきつく瞼を閉じる。そして、目を開けると震える舌を差し出し、優也の口腔内に差し入れそうとした。その時、再び。 「ああっっっ!!!」 青葉の身体は大きく震えた。体勢を保てなくなった青葉は優也の肩に顔を埋める。体の震えが止まらない。後ろ手に縛られた手も助けを求めるかのように虚しく指が蠢いている。 「ゆう…や!…無理…だ!」 優也は青葉の臀部を揉みしだきつつ、今度はアナルに指を突き立て乱暴に掻き回していた。青葉が体勢を崩しても優也は動止めることはなく、指のピストンを早めたり性感ポイントに爪を立てる。快楽に苛まれる優也は腰を落としたいが、優也は許さない。躊躇いなく臀部を平手打ちする。 「おねだり、しないと終わりませんよ?それともこのままイっちゃいます?」 優也はクスクス笑いつつ、手を止める様子はない。 「優也…優也…頼むから…優也…」 体勢を戻そうにも下半身の快感が強すぎて青葉は動けない。目に涙を浮かべ、優也の名前を呼ぶことしか出来なかった。 「…もっと俺の名前を呼んでよ。俺のことだけ考えて。」 優也は笑顔のまま、指の数を増やし、抉るようにピストンした。 「ああっ!優也っ!優也っ!優也っ!」 青葉は身体を震わせ大粒の涙を流しながら、優也の名前を連呼し続けた。もう青葉にはそれしかなかった。 優也はそんな青葉に満足すると、青葉の腰から手を離す。途端、身体のバランスが取れなくなった青葉は腰を落とし、優也の胸に頭を預ける。青葉の顔は紅潮し、荒い息は止まらない。優也は青葉の顔を覗き込む。 「舐めて綺麗にしてくださいね?」 青葉の返事を聞くこともなく、優也は青葉の口を開ける。そして、先ほどまで青葉のアナルを責めていた、腸液でテラテラと輝く指を差し入れた。青葉は言われるがまま、指に舌を絡ませる。 優也は飽きることなく笑顔のまま眺め、口腔内で指をゆっくり前後させた。 青葉が舐め上げるのを見届けると、優也は青葉を横たえ、足を持ち上げる。 「一応、おねだりしてくれましたし、外しますよ。 …まぁ、俺は"される"より、"する"方が好きだし。」 青葉も早く外して欲しくて自ら足を広げる。優也は鍵を取り出すと、貞操帯を外す。先ほど散々アナルを刺激されたため、貞操帯をつけたまま軽く達していたが、絶頂はまだだった。陰茎はそそり立ち、刺激を欲しがり揺らめいていた。 優也は微笑むと、ようやく自分の服を脱ぎ始めた。 今日の優也はずっと笑顔だった。口元が緩むことは多いが、不自然なほどまでの明るい笑顔。その違和感に青葉は気づいていた。思考は虚ろだったが、青葉は確認せずにいられなかった。 「…優也、…怒っているのか?」 「………あー、バレました?」 優也は笑顔のままだ。 「今日すごく楽しかったから誰にも邪魔されたくなかったのに、 よりにもよって女将さんから電話かかってきたじゃないですか。 仕方ないと分かっているのにイライラしちゃって。そしてこれが収まらないんです」 話終わる頃には青葉は全ての服を脱ぎ終わっていた。 優也は青葉を強引に立たせると全面ガラス張りの窓に連れて行く。青葉は抵抗するが、優也から逃れられない。 「優也、嫌だ!人に見られる!」 「これが八つ当たりだって分かっているけど、やめられないんですよ」 優也は笑顔を崩さない。外を見るように青葉をガラス窓に押し付ける。 「大丈夫ですよ。こんなに部屋がたくさんあるのに、 この部屋を見る人なんて可能性低いでしょ。たぶん。」 「優也!頼むから!」 「それに、水族館や映画館でも人に見られるかもしれないって興奮していたでしょ?」 「優也!」 優也は青葉を窓ガラスに押さえつけたまま押し入れ、腰をピストンさせ始めた。 「ゆうっや…やめって…くれ!」 そう口にしつつも、青葉の身体は待ち望んでいた快楽に震えた。指では届かなかったアナル奥深くまで刺激され、窓ガラスに擦られる陰茎や乳首の刺激も気持ち良さしか生まなかった。また、赤く腫れた臀部も触れられるたびに痛みと共に痺れるような快感が生まれていた。 青葉の芯は熱くなり、何も考えられなくなりそうになる。 しかし、視界に入ってくるホテルの他の部屋の照明やその照明で動く人影が青葉の理性を引き止める。このままだと羞恥心からくる興奮を楽しむ淫乱な人間だと自他共に認めることになりそうで青葉は嫌だった。振り返り優也に乞う。 「ベッドにっ…行きっ…たい!なんでも…するから!」 「出ましたね、"なんでもする"。…それじゃあ、また貞操帯つけます?」 首を横に振る青葉。 優也は笑いながら青葉の左足を持ち上げ、わざと優也の赤く腫れ上がった臀部を力強く揉みしだく。 「もぅっ!そこは!やあっ!」 痛みと快楽が混じり合った刺激で青葉は大きくビクビクと身体を震わせる。優也は含み笑いをしながら、さらに少しでも奥深くを刺激しようとピストンを早める。パンパンと腰を打ちつける音が室内に響く。 …見られることは嫌なはずなのに。突き上げられるたび気持ち良さだけが体を満たしていく。自分はどれだけ淫乱なんだ。 青葉は涙をこぼした。理性と快楽の狭間でもがく。しかし身体は正直で、窓ガラスに股間を擦り付けられる直接的な刺激で早々に絶頂を迎えた。 「優也!もうっ!イってしまう!」 言い終わらないうちに、青葉と窓ガラスの間に白濁した精子が広がる。 優也が一旦青葉から離れると、窓に寄りかかりながら青葉は崩れ落ちた。優也は含み笑いしつつ、青葉の両手を解放すると、青葉の耳元で囁く。 「窓、綺麗にしないと。舐めてください。」 青葉は驚き振り返るが、優也の目は拒否を許さなかった。青葉は窓ガラスを見据えると、震える舌で少しずつ舐めとり始めた。 「ほら、ここも…」 優也は窓についた精子を指に取り、青葉の口元に寄せると抵抗することなく優也の指を舐める。そんな青葉に優也は薄く笑うと、青葉の臀部を優しく撫で再び挿入した。肌を打ち付ける音が室内に響く。 「んっ!あっ!いいっ!」 再び青葉の身体は快楽に溺れる。快楽に酔いしれ、うずくまりそうになるが、優也が諌める。 「気持ち良くなっていないで、ちゃんと綺麗にしないと。」 青葉は窓ガラスに手をつき体勢をどうにか戻すと再び舐め始める。ふと見ると、自分の顔が窓に映っていることに青葉は気づいた。 …なんて浅ましいんだ。 熱に浮かされているかのように顔は紅潮し、誰かに見られているかもしれない場所で男に抱かれて快楽に酔っていることを嫌でも自覚させられる。そんな自分に絶望し、また涙が溢れる。 しかしそんな思いもまた快楽に飲み込まれていく。 やがて優也も絶頂が近くなる。青葉の身体を抱き抱え、青葉の顔を強引に振り向かせると深く口づけした。青葉も待っていたかのようにすぐに受け入れ、進んで舌を絡ませる。そのまま優也は絶頂を迎え、青葉は解放された。 青葉は荒い息のまま、床に突っ伏す。そして、解放されることで体の熱が収まって思考が動き出すが、青葉は涙が止まらなかった。 …このままだと自分の知らない本性をもっと暴かれる。落語二人会が終わってももう今までの"普通"には戻れない。 そう考えただけで青葉は自分が怖くて涙が止まらなかった。 そんなこととはつゆ知らず、優也は青葉の止まらない涙を見て動揺し、冷静さを取り戻した。 「…ごめんなさい。今日の俺、浮かれすぎていました。 …次は優しくしますから。ベッドに行きましょう。」 優也は青葉を抱き起こしつつ、手を差し伸べる。その手を取った青葉はまた泣いてしまっていた。 …ああ、なんだ。結局、自ら望んで後戻り出来ない道に踏み入れてしまっているじゃないか。 この関係をどうにかしないと思いつつ、結局はこの関係に甘んじてしまっている自分を自覚せざるを得なかった。 ベッドでの優也は優しかった。 青葉の望むまま全身を指や唇で刺激し、あえて直接的な刺激を避けて焦らし、再び高揚させていく。青葉の中に快楽が少しずつ確実に蓄積し、繋がること以外何も考えられないように導く。快楽で焦らされるほどに青葉は甘く上擦った声を出して縋り、自ら両足をはしたなく広げる。 優也は薄く笑うと青葉の顔を覗き込む。 「さっき何か余計なこと考えていたんでしょう?」 優也は青葉の涙の跡を拭く。青葉は何も言うことが出来ず顔を背けてしまう。優也は苦笑しながら、青葉の両手に自分の両手を絡ませる。 「今日はもう望み通りにしますから。何をして欲しいです?」 青葉の視線は宙を舞い、唇が僅かに動くが、結局、顔を背けてしまう。優也は苦笑が止まらない。青葉の耳元で囁く。 「今、俺たち2人だけなんだから。恥ずかしがることないでしょう?言わなきゃ分からないですよ?」 優也は青葉の乳首をきつく捻る。青葉の身体は震え、そしてそれが合図かのように口にする。 「早く…繋がりたい…し、奥深くまで…ずっと突いて欲しい…たくさん…キス…したい」 恥ずかしさで青葉はまた顔を背けるが、優也は青葉の顎を持ち正面に向けると視線を合わせる。 「なんだ、いつものことじゃないですか。」 優也は薄く笑ったまま、身体を深く進めて繋がり、深く口づけする。 青葉の身体は歓喜するように震え、口からは嬌声が漏れた。優也の背中に手足を回し縋りついた。 まるでいつまでも離れたくないかのように。

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