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運命は繰り返される(完)

「はぁ……。今日はこんだけかー」  缶の中に入ったコインは夕飯が食べられるかどうかの金額で、ホテルになんて夢のまた夢だ。 「でも、さっきのお客さん、本当に楽しそうに観てくれたなあ……。ブラボーって褒めてくれたし、なんとかなるなる!」  そうだ。セリフを噛んでしまうドジなんてなくなってきたし、カフェの店長やってるトムさんだっていつでもバイトしてきてもいいよって言ってくれたし。 「なるなる。なんとかやってみせるぞぉぉ!!」  空高く拳を上げてみれば、地元の人に『うるせえ!』なんて怒られちゃった。あはははは。  広げた袋とダンボールの看板をケースの中にしまい込んでいると、どこからか歓声が上がる。路地裏を出た先にあるお店。中央の人物はワイングラス片手にバルーンハットを被っていた。周りの人がケーキらしきものを持っている。 「誕生日かな?」  未だ聞きなれない言語なのに、楽しそうに歌う様子に自然と心が明るくなった。こういうとこ、僕の良いところだよね。  歌が終わると、数人がクラッカーを鳴らしていた。  手でクラッカー作り、自分に向かって「パーン」。 「ふっ、僕も誕生日なんだよね。ハピバ、自分。はじめまして、エイティーン」  うん。やっぱりやっていて恥ずかしい。自分一人じゃ恥ずかしい!!  夢と希望と荷物を入れた重いケースを持ち上げ、ライト光るあっちとは別方向に踏み出した。 「わっ!」 「っ、た……!」  冷たいコンクリにお尻を強打……のはずなのに、額が凄く痛い。ズキズキする。って、そんなことをしてるんじゃない。 「大丈夫ですか!?ごめんなさい……って、あわわわ、僕、ここの言語あんまりよくわかんないです、許してください!!」  通訳をトムさんに頼りぱなっしにした僕が絶対悪いんだけど、パニックになってその場に何度も土下座を繰り返した。 「……俺も悪い。よそ見してた」  僕の故郷の言葉だ。  目の前の男性はトレンチコートを着ていて、足がカリスマモデルかというほど長い。いいな、僕なんて低身長なのに。世の中意地悪だなあもう! 「本当に本当にごめんね。痛いとこない?」 「いきなりタメ語って……。まあ、ねえよ」 「良かった……」 「おい、足が絡まった手貸せ」 「アシガカラマルトハ?」  悪い人ではなさそうな人に手を伸ばす。がっしりとした大きな手が僕を包み込み、立ち上がった。  ふわりとした青のショートカットから見える、海よりも深い青い瞳。 (綺麗な目だな………)  シャープな輪郭に焼けていない白肌、儚げな目、薄い唇。それに負けず劣らずの青い瞳に見蕩れていて、「お前」と声を掛けられるまで気付かなかった。 「僕?僕は花宮(はなみや)あいか。スター劇団員の団長だよ!色んな国を回って演技を磨いているんだ」 「別に名前を聞いたわけじゃ……って、しかもどう見てもお前一人しか……」 「あー、聞こえない聞こえない!!で、君は?名前は??まさか、忘れたの??」 「はぁーー。……星河(ほしかわ)」 「な・ま・え!!」 「星河 流星(ほしかわ りゅうせい)」 「流星君か〜何してるの?」 「言うか」 「ええ、ケチー」 「ケチじゃねえ。見ず知らずの奴に小説家っていうか」 「あっ、だから本が沢山入っているんだね、そのバッグ。そりゃあ作品を書こうとしたら沢山本読まなきゃね。僕も読書好きだよ〜」  暗い夜道を見知らぬ二人で歩いていく。新鮮なワクワクした気持ちになっているのに、どこか懐かしい感じがするのはなんでだろう? 「あのさ、」  さっきから僕と視線を合わせなかった流星君が路地裏を出るなり向かいに立った。僕より頭二つ分大きいのでは?と不思議に思いながら待っていると、胸にある飾られた花が見えた。 (アストランティアだ……。僕の誕生花……)  もしかして君も、今日誕生日なの?期待の質問をしようとすると、こめかみが痛んだ。痛みはほんの一瞬で、不思議に思っているうちに先に口を開かれる。 「男と一緒にいたらまずいだろ」 「はい?」 「だーかー、らっ。こんな夜に年相応の女がこんなところで油売ってんじゃねえよ。何かあったらどうすんだよ分かったらそろそろちゃんと……」 「男だよ?」 「………は?」 「だーかーら。僕、男だって。失礼するなあもう!」 「嘘だろ?」 「嘘付いてないよー」  ○○○○年の六月六日 十八歳。故郷ではない異国の街の流星群が拝めるこの空の下で、僕は運命に出会った。 「すまん」 「謝る気ある?」 「ごめんって」 「なら、スター劇団の脚本家担当になってよ!あ、演者でもいいよ!ねえ、僕さ、君のこともっと知りたいなあ!」 「やばい。こいつ話が通じねえ」 「ついでに喉乾いたら奢って!僕、オレンジジュース!」 「……はぁ。お前、変人だろ……」 「そんなことないよ!誕生日くらい、好きなもの飲んだってバチは当たらないよ!」

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