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出逢ひ。
「ねぇ、その猫、あんたの?」
間宮は茶屋裏で、たまたま見つけた可愛い子猫を撫でていると、突然背後から声がして振り向いた。
背後にいた彼は葡萄酒色の着物で着飾った綺麗な青年だった。
はしばみ色をした波打つ髪。華奢で日焼け知らずの透明な肌。
吉原遊郭にいるということはおそらく、彼は娼妓だろう。それもかなりの美妓だ。
御職を勤めているに違いない。
(えっと、それで彼は何と言ったんだっけ?)
すっかり青年に見惚れていた間宮はぼんやりとした思考を必死に動かした。
そしてようやく彼が訊ねた内容を思い出す。
「――いや」
間宮が静かに首を振れば、
「それで? あんたはその子猫を飼ってやるの?」
青年は腰に手を当て睨んでくる。
片方の眉がひくひくと小刻みに動いている。
尖った赤い唇も――。
髪と同じくはしばみ色をした目も――。
華奢な身体も――。
彼のすべてが間宮を魅了してくる。
相手は怒っているようだが、その姿さえも可愛いと思う自分はおかしいだろうか。
こんなにも他人に興味を惹かれたのは初めてのことで、間宮は内心驚いていた。
「――いや」
またしても間宮が首を振る。
「飼う気もないのに優しくするな! アンタに懐いたその子猫がこの後どういう気持ちになるのかわかる? 引き取るつもりがないなら端っから優しくするな! 期待させないで! 猫だって生き物なんだからなっ!」
肩を怒らせて間宮を見下ろす。両の拳を力いっぱい握ってそこまで言うと、さっさと去っていった。
彼はまるで威嚇する猫のようだ。
その姿があまりにも可愛らしくて、去っていく細い背中を見つめながら間宮は苦笑した。
きっとまた出会うだろう。そんな予感さえも残して……。
《出逢ひ・完》
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