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第17話 翌朝(1)

 穴ぼこだらけの石壁から差し込む朝の光に、僕は目を覚ました。  体を起こした。体中がきしんでいる。  でもすっきりもしていて。  僕は見慣れない部屋の中を見回して、ああそうか、異世界転生?ってやつをしたんだっけ、と思い出す。  今、小屋の中には僕しかいなかった。  レンはどこにいったんだろう、と思いながら立ち上がり、僕は思い出した。  昨日の夜、ここで起きた出来事を。    昨日僕は、急に体が疼きだして、どうしようもなくなって、それで……。  レンにたくさん気持ちよくしてもらって、僕は女の子みたいによがって、変な声をあげて……。  血の気が引いていった。  自己嫌悪に押し潰されそうになる。  なに、あれ。    僕は外の空気を吸いたくなった。    僕は情事の現場から逃げるように、その小屋を出た。  外は森だった。ここは森の中にある小屋なんだ。隠れ家としては最適なんだろう。  僕は家の周りを一周してみることにした。壁伝いに裏側に回ると、庭のように開けていた。  庭の向こうにもうひとつ木造の小屋があり、庭には赤い実をつけた樹が生えていた  樹の下でレンが赤い実をもいでいる。  僕はレンを見てうろたえる。  どうしよう、いったいどんな顔をすればいいんだ。  僕の気配に気づいた様子で、レンがこちらに振り向いた。 「お、起きたかヨウ」 「うっ……。お、おはっ……」  僕はしどろもどろになってうつむいてしまう。  レンはくすっと笑った。僕に近づいてきて、赤い実を差し出す。  りんごによく似た形の、でも柔らかくて感触はさくらんぼみたいな不思議な木の実。 「これうまいぜ、食えよ」  言ってレンは、大きな切り株に腰を下ろした。赤い実を受け取った僕もその隣に座る。  僕が黙っていると、 「昨日のことは気にするな、転生者は『飢餓』状態になるとみんな、ああなるんだ」 「飢餓?」 「そっ。エロいことしたくて仕方なくなる飢え。あれは地獄の苦しみだよな。こまめにオナニーして体の中の精液……『転生者液』抜かないとあの状態になっちまう。あの状態は危険なんだ」 「き、危険って?」 「誰でもいいからセックスしたい、って気持ちになって、せっかく潜伏してたのに現地人のいるところに自ら出ていっちまう。で、つかまって、奴隷さ」 「なるほど……」 「さらに極限まで液を溜め続けると、本当に気が狂って廃人になっちまうとかなんとか」 「ええー!?」  射精しないと廃人になっちゃう体ってなにそれ怖い! 「まあだから、昨日のことは忘れちまえ。俺も忘れるから」 「う、うん……」  ありがたいけど、でもなんでだろう、それはそれでちょっと寂しい気もしてしまった。  だって昨日確かに僕は、幸せだったから。 「食えよ、皮ごと食えるぜ」 「あ、ありがとう」  赤い実をかじってみた。甘さがじゅわっと口の中に広がる。本当においしかった。 「わ、おいしいね!皮も甘いんだ」 「だろ?」 「僕ほんと、君に会えてラッキーだった」  僕はしみじみとつぶやいた。  現地人から助けてもらって、いろいろな情報を教えてもらって、食べ物も寝床も提供してもらえて。性的な「飢餓」まで解消してもらえて……。 「それは俺も同じだ。ずっと一人で心細かったからさ、仲間できて本当に良かった」  そう言って僕に微笑みかける瞳がとても優しくて、僕は胸がドキドキしてしまう。  やっぱり、かっこいい。  僕はレンが好きだ。  向こうの世界では絶対に独り占めなんて出来なかったレンを、今、僕は独り占めできているんだ。  そう思うと嬉しくて仕方ない。  そういえば……。 「ね、ねえレン。あっちの世界……日本に、彼女とかいた?」

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