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第19話 現地人の街へ(1)

 レンはジュダ……えっと、ウマに乗って森を抜け、草原を走った。  僕はフードつきローブを羽織り、レンの前にまたがらせてもらった。レンの腕の中にすっぽり納まって、初めての乗馬体験に感動してしまった。  王子様みたいなレンと一緒に、草原を馬で駆けるなんて、お姫様にでもなった気分。……なんてアホなことを考えてしまった。  やがて前方に丸い城壁が見えてくる。  レンはその城壁の門前でウマから飛び降りた。そして不器用な僕が、ほとんど落っこちるような形で降りるのを、下で抱きとめてくれた。  恥ずかしいやら嬉しいやら。  門は開け放たれていて、その中にぞろぞろと現地人たちが入っていく。門番たちは黙視するだけで、特に質問を寄越すようなこともない。  ウマを引いて僕達は、なんなく城壁の中に入れた。 「簡単に入れちゃうんだね」 「ああ、このアイロウって街はでかいからな、こういう人の出入りの多い街は検問がほとんどないことが多い」 「へえ。それにしても賑わってるねえ」    僕はきょろきょろ、その賑わいを見渡した。  石畳の通りが迷路のようにあちこちに伸び、赤い洋瓦の屋根を頂く石造りの建物が所狭しと立ち並んでる。ヨーロッパ風の街並みだ。  そして通りの上には、青空市場のテントが軒を並べていた。  青菜や果実、肉や魚、工芸品や衣料品などなど、色鮮やかで目にも楽しい。  そして色々な人種がいた。耳が尖ってる種族が一番多かったけれど、耳は普通で頭に角が生えている人もいたし、肌が緑色の人もいたし、尻尾が生えてる人もいた。 「色んな連中がいるだろ。でも転生者にとっては全員敵だ。『無印』とバレるとすぐ襲ってくるぜ」  人混みの中を歩きなあら、レンが小声で囁いた。 「無印?」 「そっ、尖り耳もない角もない尻尾もない、そういうのが無印で、転生者の特徴だ」  付け耳は本当に大事なんだなと思った。僕はフードをより深く被り直した。絶対に外れないように気をつけなければ。緊張する……。    レンは路地から路地に曲がり、表の喧騒から奥まった静かな一角にまでやってきた。  僕に読めない文字で書かれた看板のある店の扉をくぐる。扉のベルがからんからんと鳴った。  暗くてホコリっぽいが、表の見かけより奥行きのある店だった。カウンターの向こう側、様々な種類の武器や鎧が並んでいた。  誰もいないかと思ったら、奥のほうから一人の老人が出てきた。かぎ鼻と尖った耳、曲がった腰。ほとんど髪は抜け落ちていて、顔中しわだらけだった。  老人はレンを見て、目をきらりと光らせる。 「おお、久しぶりじゃのう、レン。忘れられたかと思って、わしゃ寂しかったぞ。なんじゃい、その連れは」  老人は僕をじろじろと見た。そしてにやりと笑う。人差し指を上にむけて、くいと曲げた。 「ちょっと来い」 「えっ……」  僕はためらいながらも、カウンターに近づく。カウンター越し、老人がいきなり僕のフードをばっと外した。  僕の尖っていない耳が晒される。 「やはりの、おぬしも転生者か」

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