28 / 68

第28話 質屋(2)

 僕はひゅっと背筋が冷たくなる。  ああそうか、僕達は狩る側じゃない。狩られる側なんだ。  レンは顔色ひとつ変えなかった。 「転生者とか超激レアにもほどがあるだろ、狩りたくて狩れるもんじゃない」 「まあ、な。フェンリルさえ手に入れば簡単なんだけどなあ」 「フェンリル自体が激レアモンスターだろ。手なづけるのにも超上級テイムスキルが必要だ」 「フェンリル、って……」  僕の質問にレンが答えてくれる。 「すんごい鼻のいい犬。犬ってか魔獣だけどな。通常、見た目でしか違いが判別できない転生者の、ごくごくわずかな臭いの特徴を嗅ぎわけることができる、唯一の生き物」  僕は顔を引きつらせる。 「や、やば……いくらい、便利な犬だね!ほ、欲しいなあ!」 「それが、最近この街の周辺にフェンリル使いがやってきたらしいんだよ」  鑑定士の言葉に、僕ら二人は硬直する。さすがにレンも動揺を隠せなかった。でも鑑定士はレンの動揺をただの驚きと解釈したようで、得意げにうわさ話を続けた。 「なんだ知らなかったのか?ほらギルド所属してないから、情報に疎くなるんだぜ。北のユルカン高原に潜伏していた転生者を狩りつくして大もうけしたらしい。で南下してきて、今はここらへんを狩場にしてるってよ。うらやましい話だぜ、わんころ一匹で大金持ちだ」  レンは口の端を歪めて相槌をうつ。 「へえ、そりゃ、景気のいい話だな。俺もテイムスキル鍛えるわ」 「お前ならいけるかもな。お前、半年前うちに通い始めたけど、どんどん持って来るアイテムのレベル上がってるもんな。若いっていいな、これからぐんぐんスキル伸びるさ」 「はっ、お世辞言っても値引きはしねえからな?じゃあまた、なんか手に入れたら売りにくるわ」 「おう、待ってるぜ、ぼったくりハンター」  お金と共にものすごく悪い情報を得て、僕らは質屋を後にした。  僕は石畳の通りを歩きながら、小声でレンに話しかける。 「ね、ねえ、フェンリルまさかこの街の中にもいるとか」 「いや、街の城壁の中に魔獣は入れないルールだ。たとえテイムされてても……つまり、ペットでも」 「そっか」  僕は胸をなでおろす。レンの顔に焦りが見えた。 「質屋の言うとおりだな、情報収集のためだけにでもとりあえずギルドに出入りしておけば良かった。もうこの辺りは危険だ。明日にも引っ越そう」 「えっ!わ、わかった!」  僕達は街の城壁を出て、ウマで帰宅した。必要なものをまとめて、明日は引越しか。  常に追っ手におびえて逃げ続ける生活、これが転生者なんだ、と僕は改めて自覚した。

ともだちにシェアしよう!