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第36話 西へ

 外に出ると、どこからともなくワン太がやってきた。  尻尾をふってレンにじゃれかかろうとするけど、レンは相変わらず引きぎみ。  かわりに僕がワン太を撫でてやる。 「そういえば餌とかあげてないけど大丈夫?おなかすいてない?」  レンは呆れ声を出す。 「フェンリルの餌ってイノシシ系モンスター丸ごと一匹とかだぞ?そんなん用意できるのかヨウ」 「う、無理!」 「だろ、自分でとって食ってくるんだよ」  ワン太はレンに相槌をうつように、ワオンと吠えた。  そっかー、自活できるのか。なんて楽ちんなペットなんだ。  まあ家に閉じ込めるより、自由に外を駆け回らせて獲物追っかけ放題のほうが、きっと幸せなのかも。やっぱり日本のペットとは事情が違う。  レンは小屋からウマを引いてきた。 「出かけるの!?」 「帰還の門」 「えー!?い、今からもう行くの!?」 「ああ!こんなクソみたいな世界、いつまでもいてらんねえ!」 「で、でも危なくないかな!?」 「危ないって?」 「転生者狩りのハンター達の間で、その帰還の門の情報が共有されてるんだよね、きっと。転生者は元の世界に戻るために必ず帰還の門を目指すよね。ハンター達にとっては、帰還の門付近で待ち構えていれば、向こうから転生者がやってくる、ってことにならない?」  レンはぐっと言葉に詰まった。 「そ、そういえばそうだな……。待ち伏せされてるだろうな。でも、確認だけでもしたい。本当にそこに帰還の門があるのか、それだけでも知りたい。西のミルドジャウ山近くの街に行けば情報だけでも得られるかもしれない」 「分かった……。じゃあとりあえず情報収集、だね」 「ああ、西に向かおう」  そして僕らはウマに乗って、西へと向かった。ワン太も僕達の後についてきた。  原野を何時間も走った。  途中、巨大コブラやら巨大サソリやら、危なそうなモンスターに遭遇したけど、全部フェンリルのワン太がやっつけてくれた。 「ワン太すごい、かっこいい!ほら、ワン太ゲットしてよかったじゃん!」  巨大コブラを頭から丸呑みしたワン太を、僕はウマから降りてわしゃわしゃ撫でた。  ワン太は嬉しそうに尻尾を振っている。  毒のある生き物食べても平気なんだ!?フェンリルってすごい!  レンはウマに乗ったまま、 「ただの大喰らいじゃねえか、あんくらいのモンスター俺一人でもやっつけられるし」  と拗ねた口調で言った。 「もお、褒めてあげなよー」 「ヨウは俺とフェンリルどっちの仲間なんだよ!」 「え?みんな仲間でしょ」 「そうだけど……」  と口をとがらせるレン。  も、もしかしてレン、ワン太に嫉妬してたりする!?  やばい、嬉しいかも。  僕はウマに駆け寄って、両手を伸ばし、レンに「ひっぱって」のジェスチャーをする。  レンに持ち上げられて、ウマに再び乗った。  そしてレンにきゅっと抱きついた。 「な、なんだよ急に」  僕はレンのお腹にしがみついて顔を見上げて、 「レン好き」  言ってから、恥ずかしくなって照れ笑いする。  レンは赤くなって目を泳がせた。  そんな反応にも僕はキュンとくる。  レン好みの可愛い「ヨウ」の顔だからこんな反応してくれるんだ。可愛いっていいなあ!  堂々と「好き」って言える幸せ。 「と、飛ばすからしっかりつかまってろ!ちんたらしてると日が暮れちまうからな!」  レンはウマの腹を蹴り、太陽が傾いてきた原野を、飛ぶように走り抜けていった。  僕は風を体に感じながら、またしみじみと、ヨウの顔になれてよかったーと思った。

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