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第40話 幻惑の森(1)
僕達はウェイブ村を後にして、『背徳の街』ラガドに向けて出発した。
「うう、腰が痛い、レンのせい……」
ウマの上、レンの前に跨りながら「昨晩」のことをぼやく僕。
「ヨウが煽ったのが悪い。転生者の勃起力なめんな」
昨晩、レンのえっちな液をいっぱい飲ませてもらった僕は、結局そのあと散々、本番をされまくってしまった。
「やっぱり僕がレンを押し倒すなんて百年早かった……」
「何度でも挑戦待ってるぜ。三倍返しするけど」
「三倍どころじゃないでしょー。もう挑まないよ」
「えー、かかってこいよ。俺お前に攻められるの好きだぜ」
「ふえっ!?」
赤くなった僕の耳朶を、レンが甘く噛む。僕の背中を抱きすくめながら。
うわわ恥ずかしすぎる。やだもう幸せっ。
そんなやり取りをしつつ、ウマもフェンリルも草原を走り抜けていく。
西にいくにつれ、周囲に木々が増えてきたことに気づいた。
だんだんと森林地帯に近づいているみたい。
レンがちょっと難しい声を出す。
「ミルドジャウに行くためにはあの森を突っ切らないといけないんだよなあ」
「あの森って?」
「幻惑の森とか呼ばれてて、植物系のモンスターがうようよしてんの」
「だだだ、大丈夫!?」
「一応、森を抜ける道はあるから、道からそれなければ大丈夫。なはず」
「そ、そう」
うー、なんか不安。
「ほら見えてきた、あの森」
言われて前方に目を向けると、確かに森が出てきた。
緑色の森を想像していた僕は、その色彩に目を奪われる。
淡い青、ピンク、黄色、紫、白、赤。
「なにあれ、花が咲いてるの!?」
「うん、あの森の木の半分くらいは常に花が咲いた状態なんだ。花タイプのモンスターで結構えぐいのが色々いるらしいが……まあ行くしかねえ。ほとんどが夜行性で昼は寝てるらしいしな。起こさないようになるべく早く突っ切ろう」
レンは馬に鞭を振るい、スピードをあげた。
森の道の入り口らしき中に突っ込んで行く。フェンリルのワン太も歩調を合わせてぴったりくっついてくる。
僕は森の中の光景に思わず声を上げた。
「わあ……!」
森の中は、様々な色彩の花吹雪が吹き荒れていた。
そして無数の蝶。
花吹雪と蝶が、空間を七色に染めていた。
音はまるでしない。
ウマの蹄の音と、ワン太の鼻息と足音だけ。
森自体は全くの無音だった。
ただ色彩だけが夢幻の如く、煌めいている。
「すっごいねえ!ああスマホ持ってたら動画撮りまくるのにっ。YouTubeにアップしたい!」
僕の言葉にレンが吹き出す。
「うわ、久しぶりに聞いたよスマホとか動画とかそういう単語。もうそういう発想すらなくなってたよ俺は」
そうか、一年間もこっちにいたら、そりゃ動画撮りたい、なんて思わなくなるよねえ。
「目に焼き付けておくね。でもこの森、綺麗なだけで、特に危険ってこともないんじゃ……」
言いかけた僕は、後ろを振り向き、ワン太が付いてきていないことに気づく。
「ワン太!?ちょっと待ってレン、ワン太どこ!?」
「えっ!?」
レンは慌てて手綱を引いてウマを止めた。
レンもすぐ後ろを振り向き、ワン太がいないことを確認する。
「ほんとだいねえな……。って、あそこにいんじゃん」
「ん?」
レンが通り過ぎてきた後ろの方を指さして言う。
見ると、確かにいた。
道の端っこ、木陰にうずくまっている。
僕はその姿を見て安心した。
「なーんだ、ウンチか~」
その言葉に、レンが顔を強張らせた。
「マジ?あいつうんこしてんの?」
「うん、犬が道端であのスタイルするのはもうだいたいウンチだよ。ほらあの顔つき、絶対にウンチ」
「やばっ……!」
「ど、どうしたの?」
「うんこされたら、さすがに匂いで木が起きる……。起きたらこの森の木は何するか分からねえ……」
「ええっ」
「ああ、もう知らねえ。短い付き合いだったなフェンリル。フェンリルならなんとかなるかもしれない。俺たち巻き込まれたくないから、見捨てて逃げよう」
「ええええっ!やだよっ!」
僕は思わずウマから飛び降りた。
「わ、バカ!」
「だって見捨てられないよっ!おーい、ワン太ー!!」
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