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第46話 背徳の街ラガド(1)

 ウマはレンの言ったとおり、幻惑の森の出口で僕らを待っていた。ウマにくくりつけていた荷物の中から服を取り出して身につけた。 「道草くっちまったな。誰かさんのせいで」 「ワン太のせいだねっ」 「ワウウ?」 「ヨウのせいだつってるぞ」 「そ、そうかな?」  そうかも。ごめんなさい。  レンは空を見上げた。 「なんとか日没前までにつけるかなあ」  そして僕らは再出発した。  ウマもフェンリルも休むことなく走り続けた。  日が沈む寸前にラガドの街が見えてきた。  到着できてほっとする、はずの所なのだけれど、僕はなぜかゾッとした。  ラガドの第一印象は、はっきりいって怖かった。  その真っ黒い城壁に囲まれた街は、大きく立派ではあったけれど、どこか背筋が寒くなるような、嫌な気をまとっていた。  ちょっと迷信めいてしまうけれど、たとえば神霊スポットにあるような嫌な雰囲気。  ここに入りたくないな、と思わせる「何か」がその街にはあった。  その時突然、僕の頭の中に、見知らぬ男が現れた。    額に第三の目を持つ、長い銀髪の、美しい男。  その男が僕をじっと見つめ、僕を呼んでいる。  僕は痛む頭を押さえた。  恐怖に体が震えだした。  いやだ、呼ばないで。僕を呼ばないで。僕はもう、お前のものじゃない……。 「やっ……!」 「ど、どうしたヨウ!?」  急に頭を押さえてうめいた僕に、レイが驚いている。  レイは手綱を持たない方の手を僕の腰に回して、背中をキュッと抱きしめてくれた。  すると急速に、あの男の姿が脳内から消えていった。  僕はほっと息をついた。 「な、なんでもない、ありがとうレン」 「ずっと慣れないウマに乗ってて疲れたんだろうな。もう着いた、しっかり休もうな」 「う、うん!」   なんだったんだろう今の男は?  誰?  僕はあの男を知っている?  まあいいや、気にしないことにしよう……。  城壁の門に向かって、長蛇の列ができていた。並んでいるのは男ばかりだった。  ハンター風の男もいれば、目の下に黒いくまをつくったガリガリの男もいた。  僕たちもウマから降りて、その最後尾に並んだ。  長い順番を待ち、ようやく僕達も門の面前にまで到達した。  最初の街、アイロウの門よりも広く立派で、三列に分かれて人々が中に入っていく。  通り過ぎようとしたら、黒いローブを身にまとい顔を隠した門番に止められた。  門番は手を差し出した。くひひ、と不気味な笑い声をたてながら、 「おや、お若いのにラガドかい?武器はここで預かるよ」  レンが不服そうな声を出す。 「なんだって!?そんな街、初めて聞いたぞ。どの街でも武器を奪われたことなんてなかった」 「ここは普通の街じゃない、背徳の街ラガドだよ。頭がおかしいのがいっぱいいるんだ。武器なんて持ち込まれちゃ、城壁の中が血の池になっちまうよ」  レンが眉間にしわを寄せて、隣の列を見る。みんな、文句も言わず門番に武器を預け、黙々と門を潜って中へと入っていく。 「くひひ、嫌なら入れないよ、野宿でもしたらいい。魔の山ミルドジャウの麓でね。くひっ、夜が楽しみだ、ハイレベルなモンスターがぞろぞろ出てくるよ」  諦めたように舌打ちをすると、レンは腰の剣や背中の弓矢を門番に渡した。僕も、ナイフと弓矢を渡す。 「ああ、もちろん従獣(ペット)は入れないよ。壁外の従獣(ペット)小屋で預かってやろうか?フェンリルといえども、このあたりは危険かもしれないぜ?」  レンはワン太に問いかける眼差しを送った。 「どうする?小屋入っておくか?」  ワン太は不服そうにウーと唸った。レンは首をすくめる。 「『フェンリル様なめんな檻なんて入ってられっか』だってよ」 「ひひっ、好きにしたらいいさ」  レンは軽くぽんとワン太の頭を叩いた。 「よし、ここいらのモンスターたちにフェンリル様の恐ろしさ見せつけてやれ」  ワン太は不敵な顔をしてワオンと吼えた。  レンはふっと微笑むとそのまま、街の中へと入っていく。  僕はワン太をわしゃわしゃ撫でて別れを惜しんだ。 「ああ、お前を中に連れて入れたら心強いのになあ!ちょっとの間だからね、バイバイね」  ワン太に手を振りながら、僕はレンの後を追って、城壁の中へと入った。

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