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第50話 決壊ショー(2) ※グロ

 檻の中には、僕らと同い年くらいに見える少年がいた。  鼻筋の通った、睫毛の長い、やわらかいブロンドの髪の、美少年だった。  少年は裸で、首にはめられた鉄の輪を鎖に繋がれている。  少年の体を見た瞬間、彼があまりに「小さくて」僕は戸惑った。  そしてよく目を凝らし、「小ささ」の理由が分かった。  少年は、両腕と両足を切断されていた。  まるでダルマのように。  いやその白い肌の美しさは、トルソーにたとえたほうがしっくりくるか。  服屋でよく見る胴体だけのマネキン、トルソー。少年はまさにあれのようだった。  少年は切断された足の断面とペニスを床にくっつけ、鎖に繋がれたまま、首をうなだれ目をつぶっていた。  僕はビクッとして思わず隣のレンの手を握った。レンは手をキュッと握り返してくれた。  見ればレンも、酷い渋面だった。吐き捨てるように囁いた。 「ひでえことしやがる……」  仮面男が叫ぶ。 「はーい、寝てやがりますねジョアン君!これ起こすとうるさいんで気絶させてるんですよー!手も足もないのは何故か、ここにご列席のマニアの皆さんなら当然ご存知ですよね!さあどなたか答えて!」  仮面男の煽りに答えて、観客から声が上がった。 「淫乱だから!」  仮面男が壇上から客席に向かって一人で拍手した。 「いい答え!淫乱だから、その通り!オナニーするなって言ってもしちゃうんですよ転生者!手がなきゃ足だって使ってオナニーするんですよ!足でどうやんだよ!?って思いますよねえ!」  会場から爆発するような笑い声が上がった。    血の気が引いた。  つまり、「飢餓」状態を維持するために、自慰させないために手足を切断した、ということか?  そんな理由で?  ふつふつと怒りがこみ上げる。  僕は自分自身が「飢餓」になった時のことを思い出した。  何が淫乱だ、自分があの状態になってみろ、と会場中に叫びたかった。  本当に、どうしようもなく苦しいんだ。  体が性感を求めて、求めて、気が狂いそうになるんだ。  あの辛さを知らない奴らに、こんな風に弄ばれるなんて。  どうしようもないじゃないか、そういう体なんだから転生者は。  僕達は、なりたくてこんな化け物になったわけじゃない。  仮面男は手にしたスティックを檻の中に差し込み、少年の頭にあてがった。 「じゃあジョアン君を起こしてみましょうかね!ほおら起きろ、淫乱野郎のクソ転生者!俺達のちんこが欲しくて異世界からはるばる飛んできたんだって!?」  また会場は爆笑の渦。  仮面男のスティックから、バチバチっという音がして、少年の体がびくんと跳ねた。  どうやら電流を流したらしい。  少年が目を開ける。  いきなり、かっと飛び出しそうなほど眼を見開いた。  そして床の上でくたりとしていたペニスが、立ち上がる。苦しそうなほど高く硬く屹立する。  少年の口から奇妙な音が漏れた。とても人の声とは思えない、乾いた木の葉がかさかさと擦れ合うような音。 「あ……あ……あ……」  その頭ががくん、と上を向いた。天に向かって奇妙な声で咆哮する。 「あっ、あっ、ああああああああああああああっ!」  少年は顔を歪めて目から涙を零した。  少年は嗚咽しながら叫ぶ。声帯がねじ切れたような、壊れた機械みたいな甲高い奇妙な声で、叫ぶ。 「こっ……ころしてっ……。僕をころしてっ、おかしてっ、さわって!なめて、おかして、つっこんで、おちんちんいれて、さわって、ころして、おかして、ころして、おかしてよっ、たすけて、たすけて、たすけて、ああああああああああああああああああああああ」  仮面男が腹を抱えて笑った。  会場の者たちもゲラゲラ笑った。  僕の前の男は笑いすぎてひーひーと苦しそうにしている。  笑いすぎて出てきた涙を拭いて、でもまだ笑いがおさまらなくて、連れの肩をばんばん叩いた。  会場中が笑い転げていた。  僕は吐き気を抑えるのに必死だった。レンの手をぎゅっと握って、目を背けた。  涙が出てきた。  恥ずかしさで。  自分が転生者であることが、恥ずかしくて、恥ずかしくて、僕は泣いた。  レンが、握ってないほうの手で僕の頭を抱き寄せた。僕の髪をなだめるように撫でてくれる。  でも、なだめるレンも震えていた。  レンはきっと僕以上の悲しみを、苦痛を感じているに違いない。  レンは僕よりずっと長い間、転生者として過ごしてきたのだから。

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