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第23話

熱が下がった後も、亜嵐の俺への甘やかしは酷かった… それはあんな夢でうなされた俺が、変な事を口走ったせいでもあるのだけれど… もうすっかり熱は無いというのに、俺はベッドから動く事も許されず… 亜嵐のどこか一部が必ず俺の肌に触れている。 まあ、正直最初は歩くのも辛かったから助かったけど、トイレに行くのも亜嵐に抱き上げられて… (そうだよ…いわゆるお姫様抱っこってやつだよ!) 亜嵐が遠くへ行ってしまう夢に絶望を覚えた自分が馬鹿らしく思える程… 亜嵐は片時も離れず俺の側に居た… ………… …… 「もうっ!亜嵐っ!俺もう平気だって!」 「ダ~メ!二琥すぐ無理するんだから!」 「んな事言ったって、俺このままじゃ寝たきりになっちゃうよ!」 「…っく…でも…」 「亜嵐は俺が治るまで、俺に何もしないんだろ?」 「もちろん!二琥にもうムリさせないって決めたから!」 「あっそ。じゃあこのまま俺とず~っと何にもしないのね?」 「それはっ…」 「あ~あ、残念だなぁ~」 「二琥…」 「こうしてる間に、夏休みになっちゃったし…」 思いがけず寝込んでしまっている間に、大学は夏休みの期間に入ってしまった。 テストは終えていたから問題ないとしても、主に雨愛のせいで友達関係も築き損ねているし、折角の夏休みなのに何にも予定が入ってない。 昨年までの夏休みは、弟妹に朝ご飯を出し家事をこなして昼食を作る。 その後買い物に行って、夕食を準備してまた家事の残りを終わらせて… …なんて地獄の期間だったから、学校が休みの期間なんていらないと思っていたけど… 本物の嫁になった今は、じーちゃんが手配してくれた家で弟妹も世話してもらっているし… 俺達の世話も鷲尾さんがやきたがっている位だから、家事に追われることはないだろう… (ん?…昨年まで母さん…何をしていたんだ?) まあとにかく、俺は友達と夜通し遊んじゃうような? そんな夏休みを密かに期待していた。 というか本当は… 恥ずかしいから亜嵐には絶対言わないけど、別に友達とじゃなくたって… 亜嵐とずっと一緒に居られる事も楽しみにしていた… 今の、動かしてもらえない感じじゃなくて… その…どっか行ったりみたいな? ………… …… 「どうだい?カラダは楽になったかの?」 「えっ?じーちゃん?…いつの間に?」 亜嵐のいない右側の布団がモゾっとすると、そこにはいつの間にかじーちゃんが潜り込んでいた。 「ちょっと!じーちゃん急に入ってこないでよ!」 「ふぉっふぉ…すまんね、亜嵐…じーちゃん二琥君が心配で…」 「じーちゃん、心配してくれてありがと…でも、それやめて?」 じーちゃんは布団の中で俺の足の間を撫で始め、しばらく休ませていたソコがぞわぞわする… うっかり反応し始めちゃったりでもしたら、流石に俺も立ち直れる気がしなかった… 「っ!じーちゃんっ!二琥に触っちゃダメ!ってか布団に潜り込まないで!」 「…亜嵐のケチ…王座についた途端に、そうやって偉ぶりおって…」 「もうっ!」 亜嵐は反対側から俺越しにじーちゃんを小突くと、すねているじーちゃんがベッドから転げ落ちた。 コロンと落ちたじーちゃんは楽しそうに起き上がると、ちょこんとベッド脇の椅子に腰掛けなおす… 「二琥はもう大丈夫だって!だからもうあっち行って!」 「だってず~っとこのベッドから動かないじゃないか?」 「また見てたの?もう王様じゃないんだから、アレ禁止ね?」 「…っく…亜嵐がイジワルになった~」 「もともとアレは私用で使うもんじゃないのに!じーちゃんも鷲尾も…」 「アレ?」 「あっ…うん。今度説明する…」 「またそうやって…」 「おや?二琥君元気そうじゃないか?亜嵐…あまり過保護にし過ぎても、二琥君に飽きられてしまうぞ?」 「…飽きられ…」 亜嵐の表情が、じーちゃんの呑気な一言に固まった。 「っく…大丈夫だって…くくっ…俺亜嵐の事は飽きないよ?でもつまんないし…そろそろここから動きたい…」 「…二琥」 「そうだっ!二琥君…旅行がてらカナダにでも行かないか?」 「カナダ?」 「っほら、貴雪(たかゆき)達…亜嵐の父さん達の居る…」 「あっ!そうか…俺挨拶もまだで…」 「そんなのは気にしないと思うがの?いい所だし…」 「行きたいっ!亜嵐?俺亜嵐の父さん達にちゃんと挨拶したいっ!」 「…そうだね…父さん達も喜ぶだろうし、新婚旅行がてら…」 「やった♪」 「ふぉっふぉ♪そうと決まれば早速鷲尾に言って準備を…」 「え?じーちゃん達は来ないでよ?」 「ふへっ?」 「俺たちの新婚旅行だし!なんてたって二琥との初旅行になるんだから!」 「…でも」 「じーちゃん達はいつでも行けるでしょ?絶対邪魔しないで!」 俺はつい「旅行」という響きにワクワクしてしまった… 兄弟が多かった俺は、家族で行った旅行の記憶がない。 高校の修学旅行も沖縄だったから、海外旅行なんて生まれて初めてだ。 「新婚旅行」だと思うとくすぐったいけど、亜嵐との「初旅行」は素直に嬉しい。 亜嵐に断られてしょげているじーちゃんには悪いけど… 俺も亜嵐と二人きりで行きたい… 「むー…まぁ今回はしょうがないかの…じゃあついでにこの土産を貴雪の所へ持って行ってもらえるか?…きっと飛び上がって喜ぶからのぉ♪」 「え?じーちゃん何?」 「父さん達がそんなに喜ぶ物なんてあったっけ?」 じーちゃんはごそごそと服の中を漁ると、そんなに大きくないケースを取り出した… 「これって…まさか…」 何を取り出すのかと思って覗き込んだじーちゃんの手には、見覚えのある構図が表紙になっているDVDのケースが握られていた… その表紙の写真の中心で二つ並んだ椅子に座る俺と亜嵐は… 全身に模様が描かれてはいるものの、それ以外何も身に着けておらず… その後ろでは畏まった鷲尾さんと、少し背伸びをしてピースしているじーちゃんが、嬉しそうに笑って写っていた… 「あの朝撮ったやつ…?」 「もちろん♪画質も構図もばっちり良い感じだったぞ♪」 「…この写真の?」 「この写真もすごく良かったから表紙に使ったが…中身はもっとスゴイからの♡」 「中身はやっぱり…」 「儀式の記念DVDだよ?二琥君がとっても可愛い…♡」 「…じーちゃんっ!なんてモノ作ってんだよっ!二琥固まっちゃったじゃんかっ!」 「だって…我が子の記念イベントを貴雪達も見たかったかな?って思って…」 「っもう!父さんたちは感覚が違うの!それに二琥も嫌がるでしょ!」 「…そんなに怒らんでくれよ…」 さっき迄嬉しそうにその説明をしていたじーちゃんだったが、もうすっかり意気消沈して更に小さくなっていた… 一瞬で色々と思い出し、ソレが映像で残っている事実にクラクラする… もちろんこんなモノ手土産にするわけない… 「亜嵐…もう良いよ…じーちゃん、ソレ持って行かなくても良い?」 「ん~二琥君が嫌ならしょうがないのぉ…残念だけどこれは私用に…」 「うん。じーちゃんが観るのもやめて?」 「そんなぁ…」 俺がじーちゃんからソレを取り上げると、じーちゃんは悲しそうに自室へ戻って行った… ………… …… 「じーちゃん…可哀相だったかな?」 「大丈夫でしょ…じーちゃん、すぐ忘れちゃうから♪」 「それよりっ!二琥どうしたい?」 「どうって?」 「旅行!」 「あっ!もちろん行きたいっ♪」 「ふふっ…楽しみ?」 「うんっ♪」 「二琥素直だと超可愛い♪」 亜嵐は子供の頭を撫でるように、俺を撫でてきた… ちょっと心地良かったけど、恥ずかしくてその手を払う… 「夏休みだし…すぐ飛行機取れるかな?っは!大変っ!亜嵐、俺パスポート持ってないっ!」 「二琥…慌てなくても大丈夫だから…ってかココから直接行けるけど?」 「っ!はぁ?…直接?」 「うん…出口選べばすぐ…」 「まじかよ…」 儀式もこなし終えた俺は、こっちの事を知った気になりかけていたのだけど… まだ何にも知らない事を思い出した… 亜嵐達の話に出てくるアレもそういえば何の事だかわからないし… パスポートもなく海外に行けるとまでは想像すらしなかった… 「二琥が飛行機に乗りたいなら別だけど…」 「っは!俺乗りたい!飛行機!」 「二琥…やっぱりちょっと幼くなっちゃった?」 「っく…違う!俺修旅でしか乗ったことなくて…」 修学旅行で沖縄に行った時、初めて乗る飛行機にめっちゃワクワクした… あまり経験は無くても俺は結構旅行が好きみたいだ… 亜嵐との初旅行は、ココから出て階段を登るだけ… とかじゃなくて、その道中もすごく楽しみだし… 「そっか…じゃあ飛行機でいこ♪…パスポートは作っとくね♪」 「え?…パスポートって自分で作るもんだっけ?」 「まあねっ♪手間だし、そのくらいイイでしょ?」 「…お、おう」 亜嵐についての情報は、こうしてごく自然にまた一つ更新された…

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