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最終話

亜嵐との初旅行は楽しすぎた。 亜嵐は俺のためを思って早めに空港に向かってくれたから、ラウンジ?ってやつを堪能できたし、飛んでいく飛行機を思う存分眺める事が出来た。 ただ、まさかファーストクラスだとは思わなかったケド… 「贅沢じゃないか?」って言ったら、亜嵐はいつものしたり顔で誤魔化してきて、何なら空の上で甘い香りを漂わせそうな雰囲気になってきたから、俺はもう甘んじて亜嵐の用意してくれた贅沢を受け入れる事にした。 だって空の上は特別で、何て言うか… 「世界観が変わる」感じ?あれ?それは宇宙だっけか? まぁ、とにかく俺は興奮して、飛行機の中では全く眠れない程、空の旅を多いに楽しんでいた。 ………… …… 「なぁ…亜嵐?ホントに手土産こんなんで良かったの?」 目的地が近付くにつれ、嫁として色々不安になってきた。 小さい頃の朧気な記憶と、家に残ってた家族写真で見ていたから、亜嵐の両親の事は知らない訳じゃない。 この亜嵐を育てた訳だし、嫌な記憶等全く無いはずなのに、どうしても嫁的発想で変な想像ばかりしてしまう… 「あら二琥さん?気が利かないのね?…そんなんじゃ亜嵐が可哀想だわ!」……的なやつ。 「なぁ、亜嵐?結婚してから初めて会うのに、俺の手作りクッキーなんか持って行くとかさ?失礼じゃないかな?日本でしか手に入らない物とか持ってくるって思うじゃん?普通?」 「相変わらずフツー好きね?くくっ…大丈夫だよ二琥。父さん達からのご要望だし♪…それに、父さん達も十分普通じゃないだろ?」 「うん…まぁ」 「父さん達の所には、じーちゃんがちょくちょく顔出してるみたいだし!そんなに日本も恋しくないんじゃないかな?」 「でも俺…王さまの嫁なのに特技とか無いし…顔だってスタイルだってたいしたことないし…気に入って貰えるかどうか…」 「弱気な二琥ってさ、それはそれで可愛いけど?…ちょい自信無さすぎな?俺からの愛だけじゃ自分に自信持てない?…悲しいなぁ。くふっ…全身愛撫して自信持たせてあげようか?」 「っちょ…愛…ぶ…って!」 「くくっ…いつもしてんじゃん?」 「っ!…だからって言葉にすんなよ!しかも飛行機の中で!」 「だって…二琥がいつもよりナーバスだからさ?」 亜嵐はふざけながらも俺の不安をちゃんと理解してくれてるみたいだった。 カッコいい上に嫁への気遣いまでできるなんて、旦那としてハイスペック過ぎだろ… 「父さん達も二琥の事大好きだから大丈夫!もうすぐ着いちゃうよ?…そんな心配してないで、新婚旅行楽しもうぜ♪」 「そう…だな」 ………… …… まぁ、そんなこんなだったんだけど、空港まで迎えに来てくれた亜嵐の父さんたちは、想像以上に優しくて、俺はすぐに安心しきっていた。 何なら俺のかーさんより、お義母さんの方が理想の母的な感じがして… 亜嵐がいつも俺にもたらしてくれる安心感とか優しさは、この人から受け継いだんだろうなと思った。 お義父さん達の家に一泊する事になった俺らは、近場の観光地に連れて行ってもらった。 でも俺はちょっとはしゃぎ過ぎてて… 初めて伺う義実家に着いた途端、溢れるような疲労感を認識していた… 「二琥?…疲れた?」 「…うん。ちょっと」 「くふふ…はしゃいでたもんね?」 「そうよね?こんな遠くまで来てくれて疲れたでしょう?…ゆっくり休んでちょうだい?」 「いやっ…でも…何かお手伝いします!」 「うふふ…そんなに頑張ってお嫁さんしてくれなくて大丈夫なんだから♪ねぇ?あなた?」 「二琥君はじーさんから聞いてた通り可愛いね。亜嵐の初恋なんだろう?そんな面白い話、父さんも聞きたかったなぁ…」 「やだよ。親にそんな事話さねーだろ?普通?」 「じーさんばっかり知っててズルいなっと思ってな?」 「そう言われたらそうね?」 「もうっ…母さんまで…じーちゃんは覗くのが好きなだけだよ!」 「くくっ…そうだったな?」 俺に気を使ってくれる優しいお義父さん達と、亜嵐の会話にほっこりしていた。 亜嵐の表情が少し幼く見える。 何でも出来ちゃうイメージの亜嵐だけど、親の前だと安心するのかな? 新たな一面を知れた様で、なんか嬉しい…… ………… …… 「あら?二琥君寝ちゃったの?」 「くくっ…そうみたい…母さんに気に入って貰いたくて張り切ってたのにね?」 「何~?そんなことしなくても十分可愛いのに…」 「寝顔も可愛いでしょ?」 「ちょっと…母親に惚気けないで?どんな顔で聞いたら良いか分からないわ…」 ダイニングでひと息ついただけで、二琥は俺にもたれ掛かって眠ってしまった。 はしゃぎ過ぎて疲れて寝ちゃうなんて… どんだけ可愛いんだよ? あぁ…俺達の子供が産まれたら、二琥みたいに愛らしいんだろうな… 正直俺は、父さんを憎んでいた時期があった。 母さんを選んで人間落ちして、何だかじーちゃんを捨てて行った様な気がして… 俺は父さんと母さんの子供で十分幸せだったけど、あの頃は王座の候補とか立場とかをしがらみに感じてたし… 二琥と結ばれる将来も、妄想の範囲でしかなかったから… 初恋を実らせて、未来を自分で決めれた父さんをズルいと思って、きっと嫉妬していたんだ… でも二琥と半ば無理やりだけど結婚できて、全力で愛していこうと思っていたのに… 思いがけず二琥は今、十分過ぎるほど俺の事を愛してくれている。 二琥の性格的に一番苦手な部類の儀式まで、俺の為にやり遂げてくれた。 それに… 決められていたと思い込んでいた王座だって、俺の中にはそこに就きたいという欲求があった事に気付いたし、それを満たしてくれたのも… 全部全部二琥のおかげ。 父さんへの嫉妬や、消化できなかった感情が跡形もなく消滅したのも、全部二琥のおかげだった。 二琥のおかげで手に入れた未来は大事過ぎて、いつもこの手からこぼれ落ちないように抱きしめていたいと思ってる。 もう十分な筈なのに、欲張りな俺は… 更に幸せを増やそうと思い始めていたのか。 実家という不思議な安心感のせいか、こんな潜在意識にも気が付いてしまった… ………… …… 「…………っは!」 「っ…くくっ…おはよ?」 「えっ?亜嵐?俺寝てた?…えっ?どうしよう…ねぇ?どんぐらい寝てた?」 「二琥落ち着いて?…大丈夫、20分位だけだから」 「うーわっ!お義母さんは?」 「お茶入れてくれてるけど?」 「俺っ!手伝わないと!」 いつもは目覚めてすぐ動けない俺が一瞬で覚醒した。 いくらほっこりしたからって、初めて来た義実家でうたた寝なんて…ホント俺のこういう間抜けな所大嫌い。 「あら?…二琥君大丈夫?…ベッドでもう少し寝てきたら?」 お義母さんがお茶を用意して戻って来ると、後ろからお義父さんもついてきていた。 立ち上がっただけで何の役にも立たなかった俺は、情けないままもう一度椅子に座り直すしかなかった。 「二琥?…もうそんなに気を使うなって?」 「そうね。二人とも私の息子になったんだから、そうしてちょうだい?」 「ふふっ…ほらっ…亜嵐のアルバム持ってきたぞ?…二琥君も写ってるんじゃないか?」 「うわぁ…恥ずかしいイベント…でも久々に小さい頃の二琥を見たいな♪」 亜嵐達はすっかり結託して俺のダメさをカバーしてくれる。 愛する人の家族にも大事にしてもらえる俺って、本当に幸せ者だと思う。 「可愛いわね~…ほらっ?亜嵐ったらしょっちゅう二琥君にべったりくっついてるわ♪」 「本当だね」 「あー、可愛い♪孫を抱っこするのが楽しみね?」 「…っ孫?」 「あらやだ、私ったら姑ハラスメントしちゃった…」 「いや…大丈夫です…ケド。あれ?…俺、産めないよね?」 「くくっ…二琥?なんで俺に聞くの?」 「男同士で子供が出来ると思って無かったんだけど…何か急に…自信なくなった」 「まあ、普通は産まれ無いだろうが…」 「それじゃあ貴雪さんはどうやって産まれたのかしらね?」 含み笑いのお義母さんを見てハッとした。 お義父さんはじーちゃんと肇じーちゃんとの間の子供って事だろ? …ってことは…つまり… 「ねぇ亜嵐?…やっぱり…もしかして…俺子供産める系?」 「まあね?二琥が嫌なら俺が産んでも良いけど?」 「っく…選べるのかよ?」 「婬魔に嫁いだ特典だね♪」 亜嵐から次々と出てきていたとんでも設定は、いよいよ俺自身にも降りかかる事になるらしい… そういえば肇じーちゃんが亡くなって100年? お義父さんは…何歳なんだ?…あれ、亜嵐は同級生の…はず? 「亜嵐?もしかして、年齢とか寿命とかも?」 「特典の一つかな?…今更焦っても、もう二琥にはどうしようも出来ないし?…気になる?」 「…いや…もう何でもいいや。」 「珍しく素直に受け入れるじゃん?」 「だってさ、十分幸せな結婚して…この先子供まで望めるかもしれないんだろ?」 「二琥っ…くぅ…ねぇ?俺二琥のコト、すっげぇ愛してる!」 「ちょっと~またぁ、亜嵐ってば親の前で…照れるわぁ…」 「良いじゃないか…子供がこんなに幸せになるなんて、親として一番のご褒美だろ?」 「それもそうね♪」 異国の地にある義実家で、今にも俺を舐めまわしそうな勢いの亜嵐に抱き締められている。 そんな俺達を幸せそうに眺める義両親と、まだまだ出てきそうな俺と亜嵐のとんでも設定。 幼なじみ(♂)に嫁いだ時点で詰んだ俺は、その正体が淫魔でも受け入れるしかない… と思っていたケド… 俺にはこんなにも幸せに溢れた結婚生活が訪れた。 だから俺は、これから降りかかる何やかんやを受け入れて、この先も幸せに生きていける気がしているんだ。 「亜嵐。俺も愛してるよ…でもさ、両親の前で変化しだすのは…やめて……?」 「くくっ…二琥は…はぁ…本当に可愛いね?」 「…んくっ…んっ…亜嵐っ!えっ…うそ?………うわぁぁぁぁ……………」 〈終〉

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