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第1話 社会的距離推奨協会

 赤澤紅葉(あかざわもみじ)が臣透(おみとおる)と結ばれていた頃。  世界的に流行の兆しを見せつつある、新種ウィルスの無症状感染者が、ここ日本国でも見つかった、との一報が入り、やにわに世間が騒がしくなった。同時に、カップリングが成立した、「愛の巣」に巣ごもり中の者たちにも、念のために一連の検査と、ソーシャルディスタンスを取ることが義務付けられるとの通達がきた。 「『なお、違反者は、特別陰圧室への隔離を強制執行させていただき……』? 何だこれ」  社会的距離推奨協会からきた警告文を読んだ臣が、眉を顰めて溜め息をついた。 「臣ちゃん、検査の結果、きた?」  紅葉が尋ねると、臣はスマートフォンをチェックした。つがい機関の「愛の巣」に巣ごもり中のカップルたちの検査結果は、各々のスマホのメールアドレス宛てに送られてくる。 「陰性だったよ。紅葉は?」 「俺も陰性。果物たちも、残らず陰性だったみたい」 「検査の結果が陰性なのに、ソーシャルディスタンスって、必要あるのか……?」  確かに……、と巣ごもり中の紅葉と臣、そして果物たち──別倉家の林檎と蜜柑の二人も、首をひねった。新種ウィルスは、無症状者を多く出すので封じ込めに手を焼いているらしいが、「愛の巣」の中で、世間とほぼ完全に隔絶状態の紅葉と臣、そして果物たちの唯一の窓口は、つがい機関の担当者しかいない。 「万が一を想定しての通達なんだろう。リスクは低い方がいいだろうし、検査に引っかからない陽性者もいるらしいから……、今日からしばらく、キスとかエッチはお預けだね」  紅葉が言うと、臣は「そっか……」とうなだれた。  可愛い。  こんなに可愛いお嫁さんをもらえるだなんて、紅葉は本当に幸せ者だと思う。 「ね、臣ちゃん。キスのし納め、しない?」  紅葉が提案すると、臣は恥ずかしそうに頷いた。  ちゅっと唇に、バード・キス。  しかし、互いに唇を離した瞬間、室内に警報が鳴り響いた。同時に、フェイスシールドにマスクと医療用ガウンを着用したつがい機関の担当者が、物々しい様子で入ってくる。 「ソーシャルディスタンス違反がみられました。社会的距離推奨協会の規定により、これより特別陰圧室で二週間、お二人を隔離いたします。ベータの方々も、一緒に移動してください」 「ええっ……! そんな急に……! に、荷物、は?」  色々と世話になっている顔見知りの担当者相手に、紅葉は思わず、現実的な対応をしてしまった。臣も果物たちも、突然の措置に、ついていけずに唖然としていた。 「私物は移動が完了後、わたくしどもの方で消毒をして、陰圧室まで運ばせていただきます」 「スマホも……、持ってっちゃ駄目ですか?」 「私物は全て、置いていってください。わたくしどもが、きちんと選別後、お届けしますので」  こうして、紅葉と臣の、二週間に及ぶ隔離生活がはじまった。

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